隠居の美学

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「あんたは年なんじゃけぇ、地味なのを着んさい」と、当然であるかのように洋服を見立てる相棒がいう。

中年から壮年に限って洋服のセンスを比べると、世界の各地では特色がみられる。開放的なアメリカでは派手な野球帽にサングラス、象徴的にジーンズをはいたオジサンが多い。英国へいくと、人生経験をへて社会的な地位を築いたオジサマが、上質なスーツやタイで華やかな威厳を保つ。これが我が国では冒頭のごとし。はたして何故だろうか。

いまでも「洋服」という言葉が存在する日本では、暮らしの中に「侘び」や「寂び」の心が息づいていて、潜在的にひなびた感情を美しいと認める感覚をもっている。それは年をとると隠居する慣習にも現れ、黙して大人しくふるまう美学として、古来より捉えられてきたことだ。洋服を選ぶとき、だから年寄りは地味になさい、とたしなめられる事に長いあいだ抵抗を感じていなかったのだねえ。

しかし時代は21世紀。明治維新から百四十年を経た現代では、もはや洋服は舶来文化ではなく、日本流儀のファッション感覚がしっかと根を下ろしている。とりわけ中年男子が注目される昨今では、今世風のワビワビを軽やかに愉しむ向きが飛躍的に増えたのである。

年を重ねたからこそできる着こなし。はっは、ちょっと派手な案配がちょうど良いというものだ。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2007-06-15 13:28 | 洒落日記  

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