その服をどう着るか
デパートやモールの洋服売り場を見て歩くことは少なくない。そこで販売員として活躍している人たちを指して、最近では「FA」と記してファッション・アドバイザーと呼び、一昔前ならフランス語をもじってハウスマヌカンなどと言った。
彼女たちは服飾雑誌から抜け出したような素晴らしい着こなしで、ヘアスタイルから化粧に至るまで完全にスタイルアップされた見事なもの。洋服選びをするお客にとっても確かに参考になり、自身のセンスを磨く格好の場でもあろう。
しかし一つだけ、どうしても違和感が残るので、あえて小言を申す。なぜ君たちは屋内にあってコートを着用し、マフラーを巻いて帽子をかぶるのか。屋内で外套を着たまま過ごすのは、洋の東西を問わず礼を逸する所作。場合によっては客人のほうが脱いだコートを手に持ち、店の者が屋外用の着衣で迎える、ほとんど珍妙な風景が生まれるのである。
洋服屋に生まれて四十五年。格好の善し悪し以前に、着こなしの礼節や決まり事を叩き込まれてきた者にとって、これは看過し難い現代の風潮なのだねえ。
自分を磨くも、お客の手本となることもおおいに結構。店や企業のマニュアルもあるだろう。けれどもそれを鵜呑みにしたお客は、さて如何なるか。洋服屋に必要なのは、流行や組み合わせ方の知識だけではなく「その服をどう着るか」こそが、お客にとっては最も重要なことにちがいない。
絵と文・ふじたのぶお
by foujitas | 2008-11-21 16:23 | 洒落日記