アイリッシュ・クラッシャー

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まるでカクテルのごとき名前である。アイルランドの堅いツイードでこしらえた、ツバが狭いハット型の帽子は、古くから釣り人が愛用していたという。

帽子は本来、フエルト素材に蒸気を当て、きちんと型にはめて成形した物が上等とされていた。シルクハットやセンタークリースなどを好んだ英国の豊かな階級層は、狩りのときでさえ、固く成形されたディアストーカーをかぶった。推理小説でおなじみの「シャーロック・ホームズ」の帽子がそれだ。

しかし水辺でマスを釣るケルト民族は、もっと合理的で安価な帽子をかぶった。そして釣りの最中で帽子は、頭部を保護するだけでなく、川の水を汲みとる道具として代用したのだった。そんなアイルランド人の所作を見た英国人は、固い帽子を潰すように握っても、堅牢なツイードの特性が活きて、すぐに元の形に復元し、たちまち帽子に戻る便利な帽子を「アイリッシュ・クラッシャー」と名付けたのだねえ。

日本人が帽子を使わなくなったのは、いつごろだろうか。明治初期に舶来品としてもたらされた西洋型の帽子は、やはり終戦と同時に身嗜みアイテムから除外されたようである。 自由が叫ばれ、戒律が邪魔者扱いされるようになると、いつの間にか帽子は需要が減ってしまった。いまどきは学校の制帽さえ任意だという。これを合理と呼んで良いものか否か。英国的合理主義とは似て非なるニッポン。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-12-12 17:38 | 洒落日記  

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