貝ボタンの粋

f0227716_16312634.jpg

乱獲が資源の枯渇を招いたか、取り扱いの手数が敬遠されたのか、このところ貝ボタンを見かけることが少なくなった。夏素材の背広に好まれた美しいボタンは、天然の貝を削って造られた貴重な代物。その独特の光沢は、プラスチックの加工技術が発達した現代でも一線を画す古来の素材だった。

ボタンに求められる性質は成形が容易で、かつ衝撃に対する強度が必要。むしろ合成樹脂がなかった時代に思いをはせると、けだし動物の骨や角が用いられたのは当然だったかも知れない。そんな当時から人々は、瑞々しい光沢を持つ貝ボタンを珍重していた。

貝殻と言ったってシジミやアサリではボタンにならぬ。ホログラムの如き艶を持つ「蝶貝」は、一方でパイ生地のような脆弱な組織を成していて、高温のスチームや激しい洗濯の衝突で呆気なく割れてしまう。また保管状態が悪いと変色するなど、扱いには気遣いが欠かせない。

それでも、いや、それなればこそ黒蝶貝や白蝶貝が似合う夏の洋服には、直感的に男の粋を感じるのであるねえ。コットンスーツやインディアマドラス、シアサッカー、あるいはリネン素材などのサマージャケットには、繊細な貝ボタンがおごられる。なるほど、逆から見るならジャケットに付けられた貝ボタンは、夏の洒落者が御用達の証しというワケである。春来たりなば、夏遠からじ。

絵・文 ふじたのぶお
[PR]

by foujitas | 2009-04-17 16:31 | 洒落日記  

<< 三ボタン段返り ラガーシャツ >>