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三ボタン段返り

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ここ数年、ベテラン世代のお客様からスーツやブレザーのご用命を頂く折り、三ボタン段返り型を所望されるケースが多い。背広の前立ては三ボタンで上二つ、あるいは二ボタンで上一つを留める形が一般的なのだけれども、アイビーブームが席巻した当時には、三ボタンの真ん中一つだけを留め、衿は第一ボタンと第二ボタンの間で返る形が特徴的に存在していた。これを「三ボタン段返り、中一つ掛け」と称した。

アメリカ東部のエリート大学から社会に出た人々は、かのブルックスブラザースの衣服を愛用していた。日本における段返り型は、彼らが提供した「ナンバーワン・サックスーツ」を手本にしたもので、それは胴を絞らない寸胴なシルエットと狭い肩幅、さらに袖ボタンは二個という独特でクラシカルな佇まいを持っていた。むろん現在でも営々と、それは受け継がれている。

ところが昨今のファッション界では、無意味にスーツ丈を短くした背広を流行らせるなど、もはや見るに耐えない洋服が大手を振って歩くようになった。あの無垢な若者たちが植え付けられた洋服観は将来の徳になる事がなく、不憫にさえ感じてしまうのだねえ。

思うに、団塊世代の人々が今や懐かしい「三ボタン段返り」に興味を持たれる背景には、単なるノスタルジーがあるだけではなく、逸脱してしまった若者のファッション感覚に対する一つの警鐘の念が込められているのではないだろうか。目覚めよ、若人。

絵・文 ふじたのぶお

by foujitas | 2009-04-24 16:32 | 洒落日記  

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