デリケートクリーム

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靴の手入れに興味を持ったのは、いまから三十年ほど前のことだった。当時はまだ靴墨という品物が幅を利かせていた時代で、靴の手入れというと、そのワックスをひたすら靴へ擦りつけ、ピカピカの光沢を醸し出すことを指していた。木綿の布に加え、極細のナイロン繊維で摩擦をおこすと光沢は一段と増し、鼻高々に街を歩いていた。

ところが美しく輝く靴は、なぜか突如としてひび割れたのである。ちょうど革にシワが寄る部位がパックリと口を開け、「こんなに磨いとるのに、何でじゃ」と途方に暮れたことが忘れられない。それから靴、いや革について調べ始めた。手塩に掛けた靴が何故傷んでしまったのか、その真相を知りたかったのである。

まず靴墨とは何か。革のコンディションとはどういう事か。どんな道具をどのように使えば靴を長持ちさせることができるのか。その答えは英国にあったのだねえ。

古来から馬具に革を用いた欧州では革のことを知り尽くしていたけれど、木や縄を用いた日本において革は、やはり舶来した素材でしかなかった。大きな違いは、ここにあった。その答えとは、さて。

水と脂。すなわち革の良い状態を保つためには、適度な水分と脂分を含ませておくことが大きな条件なのである。靴墨は化粧品でいうところの口紅であり、肝心なのは革と対話し、栄養を補うこと。デリケートクリームには英国王室御用達と記してあった。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-07-17 12:39 | 洒落日記  

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