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靴を水で洗う

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靴において、それまでの手入れの概念を革命的に覆したのは、とりもなおさず「サドル・ソープ」だった。小遣いを貯めて健気に購入した上等の靴は、雨の日には使わないほうが無難と教わり、天気予報を見ては足を入れる好機をうかがっていた靴だ。あろうことかその靴に、自らの手で水を浴びせかけるというのである。

当時は手入れ用品の問屋と試行錯誤を繰り返していた頃。見たことも無いクリーム状の薬剤や、奇妙な形の様々な道具を欧州各国から取り寄せ、説明書きを翻訳しつつ互いの私物である靴が実験台になった。中には誇大表示と思える説明や、うっかり誤って致命的なダメージを与えた製品など、それはまさに玉石混交の有様。靴用石けんは、そんな中から掘り出した。

本来、皮革は雨や水に対して丈夫である事を知っていたからこそ、縫い合わせて靴の材料にあてられたものである。雨天も厭わぬ乗馬の道具にも古くから用いられた。そして彼らは同時に、皮革を長持ちさせるための手入れも考案していたが、やんぬるかな日本へ輸入されたのは皮だけでしかなかったのだねえ。

件のソープは動物性油脂で作った石けん。表面の汚れを落とすより、皮の水分と脂分を最適化することに重きを置く。あえて靴を水で濡らし、石けん成分を補うことで、相反する水と油が同時に補給でき、じっくり乾燥させれば最適化が成される優れ物。

絵と文・ふじたのぶお

by foujitas | 2009-07-24 12:40 | 洒落日記  

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