礼服のベンツ

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「ベンツ」と言ったって高級外車でははい。背広の裾の一部に切れ込みを入れる仕立てのことで、これにより裾の捌きが良くなり、また時にエレガントな佇まいを見せる。多くのジャケットには背中の中心か、後ろ身頃の両脇にベンツは仕立てられている。

正しくは「はけ口」を指すベントが宛われた洋服の名称。複数形になってベンツと呼ぶ。日本では「馬乗り」と呼ばれ、つまり馬に跨ったとき、巧く背中の割れ目が広がって動きやすくする事が目的とされた。

ダブルブレストの軍服を着用する英国将校が、長いサーベルを腰に差すとき、やはり裾の捌きを良くするためにサイドベンツが採用され、打ち合いがダブルの洋服はサイドベンツに、シングルの洋服はセンターベントになったとされるが、これも今となっては定かな事とは言えまい。

さて、問題は礼服のベントである。本来、屋内で着用することを前提に生まれた背広だ。あくまでもベントは屋外で躍動的に体を動かすために、便宜上施された仕立て。すなわち、礼装や正装にベントが切ってあるのはマナーに背く仕立て方と言わざるを得ないのだねえ。

昨今では、黒色のタウンスーツと礼服を併用する着こなしがデザイナーによって提案されているのだけれども、これは度が過ぎるというもの。世の中には変わらない方が良いことだってある。守るべき伝統は守るべし。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-11-06 13:53 | 洒落日記  

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