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フィシャーマンセーター

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寒い季節になると、編み物の本やファッション雑誌に約束のごとく特集ページが見られる、オフホワイトの縄編みのセーターがある。その昔、漁師が好んで着ていたとされるフィシャーマンセーターだ。

伝統的な編み模様は家紋のように代々伝承されていて、漁に出た夫が、もしも海難事故に遭った万が一の際にも、着ているセーターの柄を見れば身元が判るようになっていたという。切なくもの悲しい誕生秘話は日本人の心を打つものだねえ。

そのルーツを確かめるべく、アイルランドの西にあるアラン諸島へ渡ったことがある。痩せた大地と嵐ばかりの海、日差しはいつも乏しく、目にした光景は壮絶な険しさに支配されていた。しかし岩だらけの小さな島で、それは確かに継承されていたのだった。

現地では「アランニット」というセーターの模様は、実のところ家紋ではなく、ケルト民族が太古の時代から培ってきたクラシカルな文様で、それは暮らしの中にある身近な物をモチーフにしたものだった。石積みの壁、漁に用いる網やロープがそれであり、妻は夫の体に合わせたセーターを手編みして営む。すると目数は必然的に一定の柄を生み、結果として家ごとの模様が決まったという。

岩国は今朝も冷え込みが厳しい。街でお洒落な白いセーターを見かけると、貧しい毛布に震えながら夜を明かした、あの島の宿が思い出される。

絵・文 ふじたのぶお

■リンク:【紀行】アラン探訪
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by foujitas | 2007-11-30 12:48 | 洒落日記  

マフラーの季節

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「今朝は寒かったですね」と交わす挨拶が増えた。店から見える煉瓦色の壁に垂れ下がった蔦は美しく紅葉し、いよいよ秋が深まったことを思う昨今。駅前の繁華街には、さっそくマフラーを巻いた女の子たちが思い思いの装いで歩く姿がある。大きく長い形、毛糸で編まれたもの、鮮やかな色合いなど、その種は実に多彩。彼女たち創造力をかきたてる格好のアイテムだ。

主に防寒の目的で用いられるマフラーは、顔や上半身を大きく包むことを指す「マフル」が語源だという。英語圏ではもっぱらスカーフと呼ばれていて、日本の雑誌とは名前の扱いが異なるようだ。

ところで、人間のからだとは不思議なもので、首元を温かく保てば、手足の先の体温まで上昇するという。洒落を楽しむファッション性と、防寒を目指す機能性を兼ね備えたマフラーは、だから首に巻いて使うことでセーター一枚分の温かさが得られるのだねえ。

映画の主人公のようにジャケットのVゾーンへ沿わせてもよし、二つに畳んで首に巻き付けるもよし、長いマフラーをさり気なくなびかせる使い方も悪くない。いまどきではカシミア素材も手頃になったし、ニットでこしらえたマフラーもカジュアルなシーンには扱いやすいものだ。

馴染みのショットバーへ立ち寄り、大きな上着を脱いで煩うよりも、さらりと首のマフラーを外すのが洒落者。おっと、酔っぱらって置き忘れにはご用心。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2007-11-23 12:47 | 洒落日記  

オジサマが細く見える服

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美脚パンツとかタイトフィットとか、いまどきのファッション衣料はやたらと細い事を強調した謳い文句が目に付く。これが流行というものだ。たしかに昨今のイケメンは、食べ物が違うのかと思うほど欧米人に近い体型をもって、テレビや雑誌の中にある。

とりわけ羨ましいとも思わぬが、やはり「ワシの腹はメタボよ」と笑っている場合ではない。食生活の改善はもとより、着衣もまた無尽蔵のウェストではタンスが悲鳴をあげるのだねえ。

不摂生の小言は別にして、そんなオジサマ方を細く見せる服がある。

スリー・クォータとは4分の3を示す英語で、コートの丈を指していう。コートの着丈にはフルレングスと呼ぶ足首までの長さ、ニーレングスという膝丈、お尻を隠す程度のヒップレングスに分類され、それはドレッシーなコートほど長い。だから背広のような「チェスターフィールド・コート」などはタキシードの外套として用いられる。

さて、心ならずも出てしまった腹を寛大に許し、軽快に見せるのは、膝や尻を覆わないスリー・クォータやヒップレングスだ。上半身と下半身に視覚的なメリハリがつき、身長や体重を問わずスッキリと見せるので、歩く様もスタイリッシュに映るのである。

ただしオーバーサイズは御法度で、ややタイト気味に着こなすことが肝要。それからいまひとつ、脱いだときの体型管理はお任せしましたぞ。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2007-11-16 12:46 | 洒落日記  

クランタータン

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ベイシティローラーズといえば思い出す向きも少なくないだろう。七〇年代後半に英国で生まれたポップスバンドだ。その青春にあふれる歌声は日本でも多くのファンを魅了した。彼らが母国の象徴として選んだのが、レコードのジャケットにも採用した派手なチェック柄だった。

タータンの起源は古く歴史の痕跡は三世紀にまで遡るという。クランとはスコットランド氏族を意味する言葉で、あの美しい格子の色とは裏腹に、その生い立ちは宿敵イングランドとの長い戦いの中で培われた。氏族が勝利して鮮やか線が加えられ、分家や独立のたびに新たなパターンが伝承されてきた。なかんずく「ブラック・ウォッチ連隊」が装った濃い紺と緑の格子はつとに有名なものだ。

日本ではアイビーファッションの流行に乗って、アメリカを経由したタータンが人気を博した。本来は格子柄そのものをタータンといったが、いつしかタータンチェックと呼ばれるようになっていた。

ファッション衣料の世界には毎年、様々な色合いのタータンがショーウィンドウを飾る。派手と思われるような色組でも、なぜかタータンだけは受け容れてしまうのは、やはり伝統に裏打ちされた民族の魂が宿っているからなのだねえ。この冬は、あえてクランタータンと呼んで、あの美しくも哀しい格子柄を楽しんでみようかな、さて。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2007-11-09 18:55 | 洒落日記  

オッドベストで一石二鳥

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カーディガンとは、前立てが釦留めになったニットセーターのことで、どこか優雅な雰囲気をもつ名前だ。それもそのはず、起源は英国のカーディガン侯爵が発案した前開きセーターといわれていて、いかにも上流階級の匂いがする。

気位が高い英国人は後になっても、ベストを指してノースリーブ・カーディガンと呼んだ。すなわち長袖を取り去ってベストになった、と主張して聞かない。日本でチョッキと称するのは「ちょっと着る」など諸説があるが、どうも後から仕立てた語呂合わせのようで真偽のほどは定かでない。

由来はともかく、秋から冬におよぶ時節にベストはとても重宝する洋服にちがいない。体感温度をうまくコントロールし、色や素材などを楽しむ一石二鳥のアイテムで、だれもが気軽に使えるものなのだねえ。

ところでベストといえば、もう一つ別の衣服を指す事がある。同じように袖を持たない形だけれど、ニットではなく布でこしらえたもの。英国ではウェストコートと呼んで区別する。こちらは本来、スーツの揃いとして誕生したが、洒落者はベストだけを単独で着用する粋を知っていた。やがて色や素材が異なる同型のベストを着込むようになり、異質なベスト、すなわちオッドベストと呼ぶようになった。

いま岩国でオッドベストが目立つのは、それだけ洒落者が増えたという証しなのだよ。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2007-11-02 17:33 | 洒落日記