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映画にみる帽子

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豪語するほどのシネマ狂ではないのだが、世に名作といわれた映画を観るのは好きで、やはり洋服屋が目を向けるのは、俳優が着こなす衣装にほかならない。なかんずくヨーロッパの古い時代を描いた作品には、いまは使わなくなった様々な形の帽子がスクリーンに映し出されて興味深いのである。

「炎のランナー」といえば一九八一年の数々のアカデミー賞をさらった有名な映画だ。二〇世紀はじめの英国ケンブリッジ大学を舞台に、陸上競技を介した友情と感動の物語は、実話に基づいて創作されたという。本作は作品賞のほか衣裳デザイン賞も獲得した。それは当時の英国のソサエティを如実に描写した完成度の高い演出で、大学の暮らしぶりや制服など、細かく検証されていたのだった。重たい歴史を持つお国柄のこと。当時の資料は少なからず残されていたのだろうねえ。

さて、学生の彼らが頭に乗せていたのが、ボーダーハットと呼ばれる藁を成形してこしらえた帽子である。日本では明治の終わりに流行し、固められた帽子を叩くとカンカンと音がする事から「カンカン帽」と呼ばれるようになった。

英語でいうストローが藁。ストローハットの一種として扱われた帽子は、素材ゆえに夏用とされたが、映画を見るにつけ明らかにコートやセーターと共に着用している。されば冬の名残にこいつで楽しむか。あいや、これを被って歩くには勇気が先か。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-02-29 17:56 | 洒落日記  

ダッフルコートの彼

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有楽通りを街灯が照らし始めた黄昏どきに、一人の青年が店のドアを開けて来られた。「あのう、ダッフルコートありますか」店内を見渡すまでもなく尋ねる彼に、今年はもう売り切れてしまったことを伝えた。するといささか残念そうな面持ちで、しかし彼は注文が請けられるかという旨を続けられた。

たしかにメイカーのネットワークを探し回れば一着のコートは見つかるだろうけれども、別注文となれば、絶望的に限られた品物でしかない。逡巡する彼の表情に、ふと遠い記憶が重なった。この品薄の時期にあえて欲する裏側には、いったいどんな気持ちがあるのだろうか。四半世紀も前に味わった、あの千秋の思いが歴然とよみがえったのだねえ。

ダッフルコートとは「ダッファー」と呼ぶ厚手のウールで仕立てた丈の長いコートだ。フードが備わり、木や水牛の角を削った「トッグル」という特別な釦が付く。かつて英国海軍の将校が制服に採用した事がきっかけとなって広まった、元はノルウェーのバイキングが考案したものと言い伝えられる。

それはとても高価で、大袈裟な造作であるせいか、学生時代、一大決心の果てに至る買い物だった。だから事を急いて、色やデザインなどを妥協して買うには余りにもったいないシロモノなのである。左様な事情で次の秋を待ったほうが良いと熱弁を奮い、彼を説き伏せた。今年の秋にもう一度、彼が店のドアを開けてくださるか否か、さて。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-02-22 17:55 | 洒落日記  

紳士と淑女のあの頃

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「バンのギンガムチェックを着とったよ」アイビーファッションが流行した時代、一世を風靡したブランドが「VAN」だった。それは和製洋服に甘んじていた日本に洗練されたファッションを持ち込み、若者世代を中心に絶大な人気を博した。襟先に小さなボタンが付けられたボタンダウンシャツや、チェック柄のハンカチにいたるまで、象徴的なデザインを備え、営々と現代に継承されているのである。

二月のある日、錦帯橋が見えるきれいなホテルに招かれた。さるロータリークラブの卓話をあずかる運びで、ファッションにまつわる小気味良い話しを聞いていただく機会を過ごしたのだった。

会場に着くと身なりを整えたクラブの方々が迎えてくださり、次々にあいさつを交わして席へ案内された。その合間の立ち話がとても愉快。冒頭のように曰く「わしも昔はアイビーじゃったよ」とお腹のあたりに手を当てられ、談笑になごむのである。

参集された会員の多くは、なるほど三十年前の青年と少女。あの頃にやんちゃ者としてならした跡が見え隠れする。きっと学校や仲間の中でもリーダーシップを発揮して、衣食住に趣を持っていらしたにちがいないねえ。

洋服は身分や生活背景を映し出すだけでなく、その人物の生い立ちや性格までも表すもの。演台の話しに耳を傾けてくださった紳士と淑女は、いまも時代を牽引する凛然たる方々だった。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-02-15 17:54 | 洒落日記  

デューク東郷の服装

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漫画「ゴルゴ・サーティン」といえば、男性ならその名を聞いたことくらいはあるだろう。一九六八年に連載が開始され、いまなお多くのファンを持つアクション漫画の傑作。主人公が裏街道でくりひろげる活劇は、世相にまつわる題材が巧みにあてがわれ、苦難をのりこえる際の興奮と、問題を解決した妙な安堵感が楽しめる物語だ。

漫画にふれる機会は多くないのだけれども、さきごろ友人から数十冊のコミック誌を借りて読み始め、いささか睡眠不足を思うこの頃。この類の漫画で武器や戦闘機の描写が詳細なことは珍しくないが、主役である彼「デューク東郷」の服装は興味深いのである。

映画を創作するおり、出演者の洋服は物語における役どころを表現させるため、繊細な考察がなされるという。衣装や着こなしは人物の職業や素性、貧富、はては社会的な立場や感情まで描写される、重要な小道具というわけだ。劇画に分類される本書でも、それらは丁寧に描き分けられている。富豪に扮するときはダブルブレストのスーツ、リゾート地の場面ではタートルネックのインナーを着て、彼は痛快に活躍するのだねえ。

内容の論評はさておき、これらは作者さいとう・たかを氏が服飾に関して造詣が深いことを表す一面であり、物語に奥行きを与えているにちがいない。

世にロングセラーは数知れずあるが、たった一人の男が四〇年も愛された事実はあまり知らない。狙撃の腕もファッションも一流ということか。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-02-08 17:53 | 洒落日記  

梅春のラムウール

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アパレル業界には梅春(うめはる)という分類がある。晩冬から早春にわたる短い期間をさすもので、梅が咲く春先をもって文字の如し。

業界では冬物バーゲンも一息ついて、新たに商業的な話題をつくりたくなる時期であるが、一方で人々は、長く寒かった冬に別れを告げ、少しずつ暖かくなる日差しに何かの期待感をもって過ごす頃にちがいない。

梅春の季節は、しかしまだ寒い。冬型の気圧配置が列島を覆い、中国地方でも降雪がみられるなど、予断が許されないことも確かだ。ファッションを先取りする楽しみはあるものの、うっかり薄着で出かけると、日暮れには震え上がってしまうのだねえ。

長らく黒ずくめだったメンズファッションに、近頃ではカラフルな色合いが戻り、これが梅春を楽しむに格好のアイテムとなる。ダークな色合いで冬を着こなした後は、軽くて明るい色をしたラムウールのニットが良い。生後六ヶ月の子羊から紡いだ糸を特にラムウールと呼ぶ。軽くて軟らかい羊毛はとても暖かく、微妙な色合いに染めることができるので、古くから親しまれている毛糸である。

コートやジャケットの中にチラリと見えるパステルカラーは、あたかも木枯らし色の風景に咲く梅や桜の花弁のようではないか。ファッションとはライフスタイルをさすもの。いにしえより人々は、暮らしの中に着こなしのアイディアを見いだしてきた。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-02-01 17:52 | 洒落日記