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プレッピー

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アイビールックというと「ああ、アレね」と誰もが理解を示す一つの固有名詞となっている。ひもとけば一九六〇年代にアメリカで流行した東部のエリート大学生のスタイル。ハーバード大学やイェール大学ではボタンダウンシャツやコットンパンツが人気を博し、後に日本の若者に大きな支持をうけた。ちょうど団塊世代が青年だった頃の事である。

栄枯盛衰を経て脈々と続くアイビーファッションは、一九八〇年代に再び日本で脚光を浴びた。やはりアメリカの影響が及んだ流行だったが、それは少し誇大なファッションだった。

プレッピールック。源を辿るとアメリカではなく英国が見えてくる。名門大学へ進学するためにパブリックスクールがあり、これを目指す学校がプレップスクール。したがって当該年齢は七歳から十三歳と幼く、ようするに「お坊ちゃん」のスタイルを模したものだった。本来は全寮制の宗教思想に充たされた厳格なライフスタイルであるけれど、そんな彼らの気さくな一面だけを採り上げ、まずアメリカの大学生が気取った。続いて日本では、ボートハウスに代表されるトレーナーに正ちゃん帽、コットンパンツにデッキシューズという極めてコアな格好が一世を風靡したのだねえ。

今年の夏、ボタンダウンシャツやポロシャツの重ね着が目立つのは、どうやらプレピーの再来か。とりもなおさず仕掛け人は、時の正ちゃん帽世代なのだから。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-05-30 15:12 | 洒落日記  

コットンスーツ

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夏のスーツの服地といえば、一般的にサマーウールと呼ばれる「トロピカル・ウーステッド」が多い。やや強く撚られた糸を平織りにした、軽くてシャリ感のある肌触りが特徴だ。薄い芯地とあわせて仕立てられたスーツは通気性が良く、日本の夏に最適な生地にちがいない。

さて、話は一九六〇年代。ときのアイビーブームの最中、とある出版社から一冊の写真集が発売された。「テイクアイビー」と題して上製本がなされた書籍は、たちまち若者たちのバイブルとして書店で、また話題のメンズショップで飛ぶように売れたのである。

硬い表紙を開いてみると、当時のアメリカ東部の大学の風景や暮らしぶり、またニューヨークやワシントンのオフィス街のスナップ写真が満載されている。憧れていたアイビールックの、すなわち本場の姿が克明に掲載されているのだった。現代のようにウェブやテレビなど即時性の高いメディアが乏しかった時代、わずかな本から情報をかきあつめ、みな一喜一憂していたのだねえ。

写真集の中程に、明るい色合いの見慣れぬスーツを着た中年紳士の姿が捉えられている。ポプリンクロスと呼ぶ綿素材で仕立てたスーツは、唯一、ウール以外の夏用服地であり、誰もが憧れた垂涎の一着。つい先日、お店の前を歩くオジサマの生成り色のコットンスーツを見て、ふと思い出した「テイクアイビー」だった。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-05-23 15:11 | 洒落日記  

暮らしとファッション

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一桁の番号をつけられた台風が日本列島に接近するなど、記憶をたどっても、ここ数年の事でしかない。確かな理由は知る術もないが、昨今の地球温暖化に何かしら因果関係があるように思えてならない初夏の昼下がり。

洋服屋を営んでいながら十年前、二十年前を遡ると、季節毎の品揃えが大きく変わったことに気づく。異常気象といわれる近頃の四季の乱れは、もはや異常と感じなくなってしまうほど恒常的なことで、夏だから綿シャツとか、冬だからセーターなどの季節感は崩壊しているといって良い。くわえてエアコンや自動車の普及など生活環境の過度な向上は、人々から四季の感覚を消し去ってしまった。

自然現象と暮らしぶりの変化は、日本のファッションを大きく変えているのである。

夏は暑いので少しでも涼感を演出できるよう綿や麻のシャツが好まれ、やはり涼しげに見える色合いが街にあふれた。ところが昨今の価値基準は流行の色や形が優先されるもので、必ずしもそれが涼しげな着こなしとは限らないのだねえ。

ファッションを楽しむのは本来、季節を感じて快適に過ごすところから始まり、社会生活の中でTPOが培われるべき。「先に洋服ありき」ではないはずだ。タケノコを見てコートを脱ぎ、カボチャを食べて半袖シャツに袖を通す。そんな衣食住が楽しめたら、もしかすると地球温暖化に歯止めがかけられるかも知れない。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-05-16 15:10 | 洒落日記  

アンクルソックス

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本来、肌着の一部として扱われるべき靴下は、目立ってはならない洋服の一つ。スーツ姿に白いスポーツソックスが不相応な事は、現代では多くの男性が心得るようになった。

店先の靴下売り場でもドレスソックスと呼ばれる商品群があり、概ねダークな色合いとシンプルなリブ編みを選んでおけば間違いがない。しかし遊び着のコーナーに目を移すと、こんどは色とりどり、まさに多種多様な品物が並べられていて、選ぶにも一筋縄に行かぬのである。

ダイヤ柄、縞柄、ししゅう柄やプリントまでデザイナーの創造力を試すがごとく、あの小さなニット製品は果てしない。カジュアルな着こなしに合わせる靴下は、どうしても迷ったなら、着衣の色や柄をキーワードにすると良いもの。たとえば水色のボタンダウンシャツにチノパンツ、それでいて同系色の靴下がチラリと見えたら粋。江戸前の知恵を拝借しようというワケだねえ。

色柄はさておき、近頃ちょっと気になる奇妙な形の靴下がある。アンクルソックスとはその名のとおり、くるぶしまで覆う短い靴下。靴を履くとニットの縁だけがのぞき、あたかも素足で靴を履いているように見えるアレだ。

ソックスとしては異端児だけれども、これからの涼感を演出したい季節にはとても効果的。素足に上質な白い革靴なんて、はっは、どこかの俳優のようでもあるが。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-05-09 15:09 | 洒落日記  

本切羽

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かつて西洋文化が舶来したころ、英語やフランス語だった洋服の名称は巧みに日本語へ置き換えられた。不慣れなカタカナ言葉を使うより、和装や暮らしの中にあった単語のほうが、仕立て職人たちにとっては扱いやすかったのだろう。

曰く「お台場」とは背広の内ポケットの仕立て方。「かぶら」とはパンツの裾の折り返し。「切羽」とは袖口のスリットを指していい、実際にボタン穴が開けられ、対になる袖ボタンを備えた仕様を「本切羽(ほんせっぱ)」と呼んでいる。

ところで一年に数回、四季に応じた展示会が東京で開催される。おおよそ半年先に市場へ出る洋服を見定め、懇談や発注を行う催事であり、アパレルメイカーの一大イベントだ。全国の洋服屋のバイヤーが集い、まさしく喧々囂々を呈するのである。

興味深いのはバイヤーやメイカーの、すなわちアパレル業界人が着用しているジャケットの袖。近年ではオーダーメイドのスーツが身近になった背景もあり、皆が申し合わせたように袖の端のボタンを一個だけ外している。さよう、本切羽仕様であることを誇示しているのだけれども、見回したところ全員が同じ格好になってしまうと、自慢効果は著しく減衰。むしろ滑稽に思えてしまうのだねえ。

留めるべきボタンを外して着るのは本来、マナーに欠ける着こなしに違いない。来月の展示会では袖ボタンを留めて赴くとするか、うむ。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-05-02 15:08 | 洒落日記