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服地に世相をみる

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空前絶後の衰退景気に包まれたまま、残された今年はあと数日。いつもの年なら活気づく歳末の繁華街だが、街ゆく人々の表情は俄に硬い。ファッションアパレル業界のニュースでもユニクロやH&Mなど低価格に特化したブランドが話題に上った外は、やはり全国的な不振が伝えられた一年だった。

好景気時代には派手な洋服が好まれ、不況になると保守的な洋服が流行するというのは、古今東西変わらぬ傾向らしい。その趣は、いきおい高額な買い物になるスーツやジャケットにも、はっきりと顕れていたようである。

カスタムメイドスーツを仕立てるには、三百種を超える服地の中から好みの生地を選んでいただかねばならない。服地には様々な特徴や価格帯があり、それぞれを「バンチ」と呼ぶ冊子にした生地見本帳によって分類してある。いつもならば、まずこの服地選びに長い時間を要するところが、今年に限ってはやたらと早い。なぜなら珍しい色柄に目をくれることは無く、大半の方が「変わった物は要らんから紺かグレーの良い生地を見せて」と実にシンプルで賢良方正なるご注文をなさるのだねえ。

下品な色柄のスーツが良いとはコレっぽっちも思わぬけれども、せめて服地選びが楽しくなるような世相であって欲しいと願う年の瀬。来る年が一層と明るく豊かでありますよう。今年も一年間のご愛読に深謝。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-12-26 17:41 | 洒落日記  

白い服の効用

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白色のディナージャケットを着た黒人ジャズマンの佇まいは、やたらと格好良く映えるものだ。その事を認めても、いざ自分自身が着てみようかと考えたとき、まず「白は汚れが目立つ」と心配が及ぶ。それでは暗色なら良いのかと思うと、汚れるのは同じで目立たないだけだから実に奇妙な言い訳でもある。

自宅のクローゼットを開いて見ると意外に白い洋服が多く、つい先日もオフホワイトのショールカラーが付いたニットを手に入れ、この冬をゴキゲンに過ごしているのである。同じく白いキルティングのコートを着て、真っ赤のマフラーを首に巻き付けたら、もう気分はプチ・クリスマスに至っておめでたい。

しかし、たしかに白は気遣いが必要な洋服に違いない。うっかり公衆のベンチに腰掛けたり、体を電柱にもたせかけたりすると、不測の事態に陥ってしまう場合がある。よって、平常の所作にも緊張し、背筋を伸ばして歩いているような次第。結果として紳士的な立ち振る舞いが生まれる。ショットバーでグラスを傾けても、安易に肘をついたりしないのだねえ。

今年もあと数週間となり、忘年会で盛り上がる駅前の歓楽街。洋服は人を物語るという。「汚しちゃいけん」などと懸念せず、せめて宴の席では白い服でシャキとし、笑顔でもって空前絶後の不況を吹き飛ばそうではないか。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-12-19 17:39 | 洒落日記  

アイリッシュ・クラッシャー

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まるでカクテルのごとき名前である。アイルランドの堅いツイードでこしらえた、ツバが狭いハット型の帽子は、古くから釣り人が愛用していたという。

帽子は本来、フエルト素材に蒸気を当て、きちんと型にはめて成形した物が上等とされていた。シルクハットやセンタークリースなどを好んだ英国の豊かな階級層は、狩りのときでさえ、固く成形されたディアストーカーをかぶった。推理小説でおなじみの「シャーロック・ホームズ」の帽子がそれだ。

しかし水辺でマスを釣るケルト民族は、もっと合理的で安価な帽子をかぶった。そして釣りの最中で帽子は、頭部を保護するだけでなく、川の水を汲みとる道具として代用したのだった。そんなアイルランド人の所作を見た英国人は、固い帽子を潰すように握っても、堅牢なツイードの特性が活きて、すぐに元の形に復元し、たちまち帽子に戻る便利な帽子を「アイリッシュ・クラッシャー」と名付けたのだねえ。

日本人が帽子を使わなくなったのは、いつごろだろうか。明治初期に舶来品としてもたらされた西洋型の帽子は、やはり終戦と同時に身嗜みアイテムから除外されたようである。 自由が叫ばれ、戒律が邪魔者扱いされるようになると、いつの間にか帽子は需要が減ってしまった。いまどきは学校の制帽さえ任意だという。これを合理と呼んで良いものか否か。英国的合理主義とは似て非なるニッポン。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-12-12 17:38 | 洒落日記  

歳末のファッション

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師走になり、遅ればせながら店でもクリスマスをテーマに装飾を施した。ベルを吊し、タペストリーを飾り、サンタクロースの人形をウインドウに置く。かつて営んだクリスマスハウスほど大がかりなものではないけれど、やはりリースやツリーを手にすると懐かしく心が躍るのだった。

世相とファッションの相関関係は古くから統計的な特徴がある。好景気に沸く頃の服飾品は派手で豪華な品物が好まれ、目まぐるしく流行が生まれる。反対に景気が芳しくない当時は、どちらかと言うと保守的で大人しい洋服が主流を占める。生活様式が多様化した昨今でも、こうした大きな傾向は変わっていない。

米国のビッグスリーさえ危ぶまれる今年の師走は、いうまでもなく全国的な保守基調。より長く着られる地味な洋服が多い。こうなると洋服屋の陳列はいささか陳腐なものになり、楽しさや活気が薄らいでしまう。すなわち不況のスパイラルが各所で発生してしまうのだねえ。

駅前商店街が今年もイルミネーションで街を飾りつけた。スケールには論議もあろうけれども、それでも岩国駅に降りたって歩く人々の心を温めることだろう。商人がしょぼくれていたのでは街も退屈になる。今月はクリスマスを思い、景気づけに赤い洋服を身につけて過ごしてみようか。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2008-12-05 17:37 | 洒落日記