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男のプチプラ

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ひとむかし前の書き手はもう少しマシな言葉を創ったが、昨今では瞬時に理解できない流行語が雑誌に溢れ、その安易な短縮造語は用法さえうまく飲み込めない場合が多い。

「プチプラ」とは小さくて可愛らしいを意味する「プチ」と、価格を指す「プライス」を並べ、末尾を無責任に省略した造語。語呂が今世風で、テレビのママさん番組などは嬉々として「チョーカワイィプチプラですねえ」と、もう滅茶苦茶に言葉を綴ってはしゃぐのである。やんぬるかな。

しかし今の時代にあって安価で可愛らしいアイテムは、ありがたい事に違いない。少し前の高級ブランド思考が、かくも安易に崩壊するとは思わなかったけれども、市場というのは一寸先が分からぬもの。ようやく賢い消費意欲に戻ったと評するべきなのだろう。

さて、女性専売特許のような「プチプラ」だが、男にも「プチプラ」を楽しむ資格はある。時はバーゲンの最中。マンネリ化したファッション小物を廉価な価格で手に入れられたら、通勤や日々の活動がちょっと楽しくなるかもしれないのだねえ。

たとえばマフラーや手袋など。いつ買ったか記憶も薄らぐほど使っていたら、こんなアイテムは今ならどこの店でもお買い得。ポケットマネーで、いささか派手かと感じるほどの色柄を選び、まずは残る冬を楽しんでみては如何だろうか。これもプチプラだからこそ許される男の浮気心なり。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-01-30 17:24 | 洒落日記  

ボタンかジップか

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ヘンリーネックと呼ぶ前立てのデザインがある。前身頃が首もとから半開きになっていて、着たり脱いだりするとき便利な仕掛けで、着用すると胸元のVゾーンの演出が楽しいもの。今時の季節なら、羊毛ニット製品に多く見られるあのスタイルだ。

胸元の分割された布を繰り返し脱着させる道具を「ファスナー」という。古くはボタンと穴を留める手段や、ドットボタンと呼ばれるバネ式ボタン。またジップと称する金属や樹脂のテープやスライダーで接合する形、果てはベルクロで「ベリベリ」と繋ぎ合わせる仕組み。衣服には、用途に応じて様々な形状のファスナーが宛われている。

とりわけ十九世紀の終わりに生まれたジップの変せんは興味深い。日本でいう「チャック」は昭和初期に巾着袋の口に備えられた事に由来する和製造語だという。一九五〇年代になって品質は飛躍的に向上し、様々な衣類へ用いられるようになった。

舶来品である日本の洋服では混在しているファスナーだけれども、米国で普及した背景から、ビンテージ服にはジップ式の品物が多く、ボタン留めの衣服が欧州のクラシカルなアイテムに多いのは、けだし当然のことなのだねえ。

さて、ヘンリーネックのセーターは、ボタンかジップか。いずれもスポーティなデザインなのだが、着こなしたときの雰囲気は異なる。アーリーアメリカンを気取る前者か、英国に思いを馳せて着る後者か、実に悩ましい。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-01-23 17:22 | 洒落日記  

コードバン

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古今東西「本革」と記された製品は数多ある。しかし農耕民族として生業を立ててきた日本では、主に木と布で拵えた道具で暮らしてきたためか、革の質に関する頓着があまり無い。狩猟民族の多くは、食肉の副産物として身近にあった革を巧みに加工する事で、今に伝わる革製品に親しんできたのだろう。たとえば靴や鞄など、革偏がつく漢字のほとんどは舶来品であるところなど、いかにも維新以降に日本へもたらされた物であることが想像できる。

なかんづく牛の皮は革製品の中でも最も多く利用されている。次いで日本では豚、羊などの革が多い。オーストラリアではカンガルーの皮革を加工した衣料や道具が日常的にあるというから、なるほどご当地の特産品とはかくべき物か。

近年、急速に希少性が高まり、価格が高騰する一方で市場から姿を消している革ある。「コードバン」と呼ぶ馬の臀部の革がそれ。欧州の農耕馬から僅かに採取できる革は、製品になったとき表裏を貼り合わせない一層構造なので非常に丈夫で、かつ美しい光沢を長く保つ。ランドセルなど毎日使う道具には相応しい素材だったが、重く手入れが欠かせないことから次第に敬遠されるようになり、いつしか靴や鞄も見られなくなったのだねえ。

いまや店に残されたコードバン素材といったら、ベルトと小銭入れのみ。後の入荷も困難を極める現状。売れて欲しくないが、これもまた商人の定めか。阿々。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-01-16 18:51 | 洒落日記  

ポケットチーフ

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我ら商人が店を開けてこそ、街の賑わいは創り出せるはず。長い正月休みが続く商店街にあって「三日より初売り」と看板を掲げた。不況が叫ばれる昨今だが、それでも大勢の家族連れや友だちが駅前に繰り出し、洋服屋は久しぶりに活気を帯びた。はやり街は、愚痴をこぼすだけでは元気にならぬものである。

閑話休題。年の初めの商いは礼を尽くしてお客様を迎えたいと考え、当日はいつものアスコットスカーフを外してタイを結んだ。鏡に映った己の姿に何か物足りなさを感じ、ポケットチーフを挿してみると、これがなかなか華やかで良い。正月早々にめでたい自画自賛である。

本来ポケットに挿すチーフは、リネン(亜麻)の繊細な布にプレスを効かせて使うべきものだが、なぜか洒落者が好むのはシルクの軟らかい布が多い。折りたたもうにも絹はクニャリとしていて侭ならぬ代物だ。そこでチーフの中央を指で摘み上げ、片方の手でしごくように窄め、二つに折り曲げて無造作に挿す。角を覗かせれば「クラッシュホールド」と呼び、曲げた山を出せば「アイビーホールド」という。

元は折りたたんで挿していたチーフを隣の淑女のために抜き出し、そっと使ってもらった後、無造作に胸ポケットへ挿したのが事始め。洒落者の些細な着こなしには、いつの時代も素敵な物語が背景にあるものだねえ。本年もよろしくお願いします。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-01-09 17:42 | 洒落日記