<   2009年 03月 ( 4 )   > この月の画像一覧

 

ブランド観

f0227716_1838547.jpg

洋服のブランドは雑誌などで価格帯とデザイン風味、また対象年齢によって分類されることが多いが、洋服屋が思うブランド観は少し異なる。それらの生い立ちや背景を知っているゆえに、現在にいわれる表面的な位置づけ以外の印象があるのだねえ。

ニューヨーカー。洋風の名前だけれども、元は大同毛織と名乗った機織屋が立ち上げたブランド。よってスーツなどの服地を知り尽くし、最善の縫製技術でモノ造りをしている。アイビーブームだった六〇年代に生まれた古参のブランドで、おそらく国産紳士服の中では一、二を争う上質な造作。

マクレガー。一九二一年にアメリカで産声をあげ、五〇年代にカジュアル衣料として世界各地で流行。映画「理由なき反抗」でジェームス・ディーンが着用した赤色のドリズラージャケットは、後に同ブランドの象徴的なデザインとして現在でも造り続けられているもの。日本では六〇年代に日綿実業がライセンスを取得して供給を始めた。

ケンコレクション。稀代の洒落者、石津謙介氏がVANを退いた後に立ち上げた国産ブランド。名称のケンは、謙介の一文字を犬に見立ててもじったものだ。大人の洒落心を具象化したカジュアル感覚は、江戸前の粋にも相通じる実に玄人好みな仕様で、見るほど着るほどに趣が深まる。ただし取り扱う店は少ない。

かくて小さな老舗洋服屋が思うブランド観の確度たるや如何ばかりか、さて。

絵・文 ふじたのぶお
[PR]

by foujitas | 2009-03-27 18:38 | 洒落日記  

長袖のマドラス

f0227716_18381173.jpg

「インド綿」と呼べば通りが良いか。インディアマドラスはインドのマドラス地方で、草木染めによって彩られた木綿糸を単純な平織りにした、とても素朴な風合いの生地。染料は強い原色が多く、真夏のリゾートでもなければ気恥ずかしいところだが、これが経年の洗濯や紫外線に晒されることで、じわりと滲んで薄くなる。使い込むほどに柔らかく幻想的な色柄になるところがマドラスの特徴であり、古くから「マドラスが泣く」と言って洒落者たちは愛でた。

ところが製造物責任法(PL法)が施行されると、なぜか本物のマドラス生地が市場から姿を消した。たまたま流行が裏目に出たのか、あるいは「色が落ちた」とクレームになる事を懸念したのか、今となっては知れぬこと。それから長い間、メンズファッションにインド綿はお呼びがかからなかった。

しかし毎年、夏が近づくと真新しく派手なマドラスのボタンダウンシャツを探すのが楽しみ。数年後の風合いを見抜くのも、ベテランだけがもつ審美眼だ。

メイカーから初夏の品物が入ったケースが届いたワクワクして開封してみると、なんと長袖のマドラスが、しかもオーガニックコットンだと記してある。「こりゃあ珍しい、三十年ぶりかねえ」左様、かつてのアイビーブームの頃、真夏専用と思えた生地で長袖を仕立てていた、VANというメイカーがあった。いや、これは懐かしいねえ。

絵・文 ふじたのぶお
[PR]

by foujitas | 2009-03-20 18:37 | 洒落日記  

三寒四温

f0227716_18372544.jpg

四字熟語を見て中国を思い浮かべたところ、いみじくも「三寒四温」とは本来、中国大陸で顕著な冬の気候を言い表しているという。シベリアの高気圧が頻繁に移動することで、文字通り三日間が寒く、四日間の暖かい日が繰り返される。ただし日本ではむしろ早春に大きな影響をうけるため、ちょうど今頃それを感じる、と辞典は説いていた。

さて、春先は洋服屋にちょっとした異変が起きる時期。近年では冬物バーゲンが早期に始まるため、二月の店頭はさっぱり。品数は少なく、洋服屋でさえ「まもなく暖かくなるのに、もう冬物はいらんよのう」と我が身を振り返るが、弥生の月になると、途端にウインドウは華やぐ。

アパレル企業には、シーズンの初頭に話題性の高い品物を並べる心理的な戦略がある。まず色やデザイン、アイテムなどを見せ、消費意欲を刺激しようとするもの。冬の終わりから一気に色香が盛り上がるこの時期こそ、ドラマチックな見応えがあるのかも知れないねえ。

店頭が春めいてくると、洋服屋は気ぜわしくなるもの。昨日まで着ていたカシミアのジャケットを早々と脱ぎ、きわめて薄く軽いサマーウールに袖を通す。朝の寒さに挫けて、うっかり冬物を着ていようものなら、「フジタサン、あんたが冬物を着とっちゃあダメよ」と笑われ、あわてて着替える早春の一幕。ハックション。

絵・文 ふじたのぶお
[PR]

by foujitas | 2009-03-13 18:36 | 洒落日記  

オバマ氏の佇まい

f0227716_18362653.jpg

オバマ大統領が誕生して四十日余りが過ぎ、テレビに映る氏の姿は、それまでの選挙戦とはうってかわり、実に凛然たる佇まいになった。自身の資質にくわえ、リーダーシップを発揮するための立ち振る舞いは、きっと研究が尽くされていたに違いない。世界的な金融危機を打開する彼の政治手腕が試されるのはこれからだが、記憶にある限り、戦後のアメリカ大統領の中では、ケネディ大統領に肩を並べる最もスタイリッシュな男である。彼の何に魅せられるのだろうか。

一八六センチといわれる身長はニュース番組から想像するより高い。すなわち厚い胸板と広い肩幅、それに民族的な特徴である長い足と小さな頭部と尻が、均整を保った理想的な体格を成している。アパレル界で「トルソー」と呼ぶマネキン人形は、まさしく彼の体型と似通っていて、だからスーツを着用した時、すこぶる美しい衣服の線が現れる。

次に姿勢が良い。背筋を伸ばし、少しだけ両足を開き、正面を見据えて屹立する姿こそ、男を最大に美しく見せるのだねえ。

そして衣服。メディアの前で着用しているスーツは、ほとんどがダークブルー。さらに純白シャツの襟元はきちんと合わされ、タイは最上部まで結ばれているのである。新鮮度を訴える紺色のスーツとエネルギッシュな演説は、おそらく作戦通り奏功した。まったく非の打ち所が無い着こなしに舌を巻くばかりなのである。

絵・文 ふじたのぶお
[PR]

by foujitas | 2009-03-06 18:35 | 洒落日記