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三ボタン段返り

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ここ数年、ベテラン世代のお客様からスーツやブレザーのご用命を頂く折り、三ボタン段返り型を所望されるケースが多い。背広の前立ては三ボタンで上二つ、あるいは二ボタンで上一つを留める形が一般的なのだけれども、アイビーブームが席巻した当時には、三ボタンの真ん中一つだけを留め、衿は第一ボタンと第二ボタンの間で返る形が特徴的に存在していた。これを「三ボタン段返り、中一つ掛け」と称した。

アメリカ東部のエリート大学から社会に出た人々は、かのブルックスブラザースの衣服を愛用していた。日本における段返り型は、彼らが提供した「ナンバーワン・サックスーツ」を手本にしたもので、それは胴を絞らない寸胴なシルエットと狭い肩幅、さらに袖ボタンは二個という独特でクラシカルな佇まいを持っていた。むろん現在でも営々と、それは受け継がれている。

ところが昨今のファッション界では、無意味にスーツ丈を短くした背広を流行らせるなど、もはや見るに耐えない洋服が大手を振って歩くようになった。あの無垢な若者たちが植え付けられた洋服観は将来の徳になる事がなく、不憫にさえ感じてしまうのだねえ。

思うに、団塊世代の人々が今や懐かしい「三ボタン段返り」に興味を持たれる背景には、単なるノスタルジーがあるだけではなく、逸脱してしまった若者のファッション感覚に対する一つの警鐘の念が込められているのではないだろうか。目覚めよ、若人。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-04-24 16:32 | 洒落日記  

貝ボタンの粋

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乱獲が資源の枯渇を招いたか、取り扱いの手数が敬遠されたのか、このところ貝ボタンを見かけることが少なくなった。夏素材の背広に好まれた美しいボタンは、天然の貝を削って造られた貴重な代物。その独特の光沢は、プラスチックの加工技術が発達した現代でも一線を画す古来の素材だった。

ボタンに求められる性質は成形が容易で、かつ衝撃に対する強度が必要。むしろ合成樹脂がなかった時代に思いをはせると、けだし動物の骨や角が用いられたのは当然だったかも知れない。そんな当時から人々は、瑞々しい光沢を持つ貝ボタンを珍重していた。

貝殻と言ったってシジミやアサリではボタンにならぬ。ホログラムの如き艶を持つ「蝶貝」は、一方でパイ生地のような脆弱な組織を成していて、高温のスチームや激しい洗濯の衝突で呆気なく割れてしまう。また保管状態が悪いと変色するなど、扱いには気遣いが欠かせない。

それでも、いや、それなればこそ黒蝶貝や白蝶貝が似合う夏の洋服には、直感的に男の粋を感じるのであるねえ。コットンスーツやインディアマドラス、シアサッカー、あるいはリネン素材などのサマージャケットには、繊細な貝ボタンがおごられる。なるほど、逆から見るならジャケットに付けられた貝ボタンは、夏の洒落者が御用達の証しというワケである。春来たりなば、夏遠からじ。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-04-17 16:31 | 洒落日記  

ラガーシャツ

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かつてのテレビドラマにラガー刑事と呼ばれた役者があった。それは入庁前の大学でラグビー選手だったことに由来する愛称と記憶している。大学においてラグビーは「早慶戦」などと言われるように、所属校の名誉と誇りを担っていたのである。

彼らがゲームのときに着用しているのが「ラガーシャツ」である。丈夫なコットンジャージは、広いグラウンドを縦横無尽に走って激しくぶつかり合うときでも、一目で敵と味方の識別ができるよう、派手な横縞柄に染め分けられている。容易にすり切れぬよう襟は布でこしらえてあり、怪我を防ぐための比翼前立てにはゴムのボタンが備わる。

運動選手が神聖なユニフォームをグラウンド以外で着る事は慎まねばならないが、OBたちは大学生活の全てを費やしたラグビーに熱い思いを馳せ、社会に出た後でも休日になると、あの派手な縞柄のラグビージャージを着て出かけた。汗を吸い取り、丈夫で動きやすいその性能は、躍動的な一日を過ごすために必要な条件を満たしていて、すこぶる調子が良いもの。

こうしてラガーシャツはタウンカジュアルにすっかり溶け込み、いまやポロシャツにとって代わる春先の代表的な衣服として多くの支持を得ているのだった。洋服屋でその色柄を見てみると、オジサマが着る衣服の中で、これほど派手な配色の物は他に無い。すなわち大手を振って着る事ができる、唯一無二の派手アイテムというワケだねえ。呵々。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-04-10 16:30 | 洒落日記  

メタルボタン

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中年向けに出版された趣味の雑誌などを開くと、軽くファッションの話題に触れている特集がある。それは格好良いお父さんへネイビーブレザーを薦めるような内容で、いま密かなブームだ、と当たり障りなく書かれている。流行というより紺色のブレザーは、もはや誰もが愛用するチノパンやポロシャツのような代物。とりわけ多くはないが、すたることもなく、洋服屋にとっては、毎シーズン大差なく売れている当たり前の品物だ。

さて、定番化したブレザーは利便性から習慣的に着用する時期と、何となく金属のボタンが気恥ずかしくなって遠ざかる期間が、なぜか交互におとずれるもの。問題の「メタルボタン」はしかし、よく見るとていねいな細工が施してある、男の数少ない服飾品の一つだ。しばらく袖を通していなかったブレザーでも、ボタンだけ新調することで見違えるように生まれ変わるのだねえ。

そこで先頃、店にある品物を改めて広げてみた。実に多彩な色柄、材質でこしらえてあるが、いかんせん価格が高い。前立てに付ける四個のボタンと袖用の八個を合わせて、十二個のボタンが箱に入って六千円以上なんて我ながら合点がいかぬ事。

メイカーが言うままの売価だったが、ちょっとコイツを見直してみた。中にはヤケに仕入値が高い物もあったけれど、この際度外視。定額給付金制度が始まったら、タンスに吊したブレザーのボタンを付け替えてみるとするか。

絵・文 ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-04-03 16:28 | 洒落日記