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ツイードのこと

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冬になるとゴワゴワとした肌触りの羊毛織物が懐かしく思い出される。いまどきは何でも軽くて軟らかく、薄いことばかりが美徳とされ、伝統的に受け継がれてきた昔ながらツイード生地は少数派になってしまった。

ツイードは、スコットランドで発達した毛織物産地、ツイード川が語源だという。毛織物の多くは豊かな風合いと充分な強度が保てる綾織りが主流で、綾織りは古くからツイルと呼ばれていた。ツイード川流域で織り上がった反物を荷受けをした男は荷札に「ツイル」と書いたが、ヨーロッパ各地へ届けられた荷物は、男の文字が下手くそだったために英語綴りは誤って「ツイード」と読まれてしまい、すっかり定着してしまった。荷物を受け取った商人は、さぞかし納得していたのではないだろうかねえ。

さて。服地としてのツイードは、たとえばシャーロック・ホームズのディアストーカー(鳥打ち帽)に象徴されるように、英国カントリー調のスタイルには欠かすことのできない代表的な生地である。コート、パンツ、ジャケットなど、多様な衣服に採用され、世界各地で人気を博した。

良いツイードの見分け方を一つ。店の者に不審がられるかも知れぬけれども、ツイードの臭いをかいでみると良い。本物のツイードは羊毛が含んでいる油脂分の独特な香りがするのである。これこそが暖かさの秘訣なり。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-11-27 13:56 | 洒落日記  

洋服の倫理観

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ゆとり社会を目指して以後、様々な規制緩和が時代の主流となり、あまねく社会で規律や戒律が緩められてしまった。このまま甘い時代が続いたら、日本の資質はどうなってしまうのだろうか。

先週の週央。さるスーツ屋の展示会があって東京へ赴いた。本来は伝統的なスタイルのスーツを提供するメイカーだったが、会場の片隅には、いまどき流行の「短丈スーツ」が飾ってあった。左様、上着の総丈が五センチも短く、パンツはシワが寄るほどスリムな伝ザイン。若者たちが一様に好んでいるスタイルの洋服である。

なんという嘆かわしい事。老舗スーツ屋も軽々しい流行に追従せねばなぬのか。無念に思いつつ展示会を辞して、それからカスタムメイドスーツの提携会社へ足を運び、いましがた見てきたスーツの話しをしたところ、仕立て屋仲間は全員が同情を口にした。そんな中で一人の洋服屋が体験談を語り始めた。

上司に短丈スーツを咎められた若い彼は、「丈が短いだけで何が悪いのか」と抗弁した。するとその中堅企業の社長は自ら彼の前に立ち、「人が不快に思うということはダメなんだ。だからそのスーツは社会では通用しないと知りなさい」と諭した。

社会的な教育を受けていない若い社員はスキルが無い。先達は知らぬ者にきちんと諭してやる責任がある。洋服の倫理観とは、こうして保たれるものなのだねえ。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-11-20 13:55 | 洒落日記  

メタルボタンの妙

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ネイビーブレザーの人気は根強い。夏になると綿や麻の素材が、冬にはツィードなど様々な羊毛素材のジャケットが流行をみせるが、「紺ブレ」だけは一年を通して廃ることがなく、ビジネスやカジュアルのあらゆる場で応用されている。

数多ある洋服の中で、濃紺の無地のジャケットはてらいが無く、安心感をもって着用できることも人気を博す理由の一つだろう。また、特徴的な金属製のボタンも少しスポーティな装いを演出できるので、かしこまった印象と気軽な着こなしが上手くバランスしていて、普段の暮らしにマッチしているに違いない。

注目すべきは、その「メタルボタン」だ。特段の注意を払わず使っているボタンは、よく見ると紋章のような刻印や浮き彫りが見られる。本来は所属する団体、たとえば王室や軍隊、企業、学校、クラブなどの紋章を象ったもので、それは左胸に縫いつけるエンブレムと同じであるべき物だった。それが現代では、生まれ故郷の欧州でも装飾品と捉えて着飾る慣習が広まっているという。

洋服は舶来品。海を渡って日本へ根を張り、独自の発展を遂げてきた物でもある。エンブレムをファッション化し、ボタンの柄を素敵なモチーフと捕らえ、巧みに活用してきた過去は、すでに百年以上にもなる。日本流儀による洋服の着こなしが、いまや欧米にフィードバックしているのだから、これは愉快なことではないか。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-11-07 13:54 | 洒落日記  

礼服のベンツ

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「ベンツ」と言ったって高級外車でははい。背広の裾の一部に切れ込みを入れる仕立てのことで、これにより裾の捌きが良くなり、また時にエレガントな佇まいを見せる。多くのジャケットには背中の中心か、後ろ身頃の両脇にベンツは仕立てられている。

正しくは「はけ口」を指すベントが宛われた洋服の名称。複数形になってベンツと呼ぶ。日本では「馬乗り」と呼ばれ、つまり馬に跨ったとき、巧く背中の割れ目が広がって動きやすくする事が目的とされた。

ダブルブレストの軍服を着用する英国将校が、長いサーベルを腰に差すとき、やはり裾の捌きを良くするためにサイドベンツが採用され、打ち合いがダブルの洋服はサイドベンツに、シングルの洋服はセンターベントになったとされるが、これも今となっては定かな事とは言えまい。

さて、問題は礼服のベントである。本来、屋内で着用することを前提に生まれた背広だ。あくまでもベントは屋外で躍動的に体を動かすために、便宜上施された仕立て。すなわち、礼装や正装にベントが切ってあるのはマナーに背く仕立て方と言わざるを得ないのだねえ。

昨今では、黒色のタウンスーツと礼服を併用する着こなしがデザイナーによって提案されているのだけれども、これは度が過ぎるというもの。世の中には変わらない方が良いことだってある。守るべき伝統は守るべし。

絵と文・ふじたのぶお
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by foujitas | 2009-11-06 13:53 | 洒落日記