今時の夏ジャケット

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一年を通じて男の背広は、その服地は異なるが、仕立ては同じもの。秋冬のスーツはサキソニーウールが好まれ、春から夏へ向かう季節ならサマーウールが一般的に用いられ、いずれも芯地や裏地などを巧みに縫い合わせ、あの佇まいが生み出される。端正な背広仕立ては、しかし一方で時と場合によって堅苦しく映ってしまうことが否めない。

サマージャケットに目を移すと、コットンのシンプルな生地や涼しげなコードレーン、また真夏を彩るインディアマドラスまで、男の夏ジャケットには豊な素材があったが、クールビズが定着してみると、あの明るく派手に見える豊富な服地は見られなくなってしまった。紺やグレイの背広で過ごしていた職場にあって、水色や赤色のジャケット姿で仕事に就くことができなかったのだろうねえ。

そんな現代の夏ジャケットに、今年は少し異変が起きている。これまでのメンズファッションには少なかったニットジャケットが、いろいろなブランドから揃えられていて、やはり人気を博しているのだった。

服地はポロシャツなどで親しんでいるカノコ生地は、裏地を持たない一枚仕立て。なにより伸縮性に富み、軟らかく涼しい。特徴を並べてみると、それはクールビズに最適な条件を揃えているという代物。ネクタイを外しただけでは心細いと思われていた諸兄には、まさしくピッタリの夏ジャケット。

絵と文・ふじたのぶお
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# by foujitas | 2009-05-29 16:06 | 洒落日記  

スキッパー

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ちょいと調べてみたところ、ファッション用語にいう「スキッパー」とは、一見すると重ね着のように映る二重襟を指すとあるのだが、いつからそのように呼ばれたのか。本来、ヨットなどの小型船の舵をとる船長をスキッパーと呼び、ファッション界では船長らが好んで着用したシャツを指して「スキッパー型」といった。

身頃が綿の布で、襟はポロシャツのようなニット仕立て。あるいは反対の組み合わせで、動きやすさと佇まいを両立させた独特なシャツである。襟を備えるのは、船の代表として礼節を重んじる一つの証し。一方、運動量の多いクルーと呼ばれる船員たちは、その名の通り「クルーネック」と呼ぶ襟を持たない丸首のシャツを着用し、一所懸命に帆や綱を操る。そうしてヨットは力強く海を駆る。

男たちが体を張って漕ぎ出した海原で、潮と汗にまみれて荒波を乗りきる姿を思うと、お洒落な着こなしと言い放ってしまうのは余りにも軽率。強い責任感と、正確で早い決断力を持つ者だけに与えられる、海の男のヨロイのような洋服ではないか。

かかるスキッパーシャツは、休日の大人が着こなせる魅力的でラフなスタイル。清潔感溢れるスキッパーにショートパンツをはいて、素足のままデッキシューズに足を入れる。小さな帽子を頭に乗せ、胸にサングラスを引っ掛け、日焼けした素肌を太陽にさらせば、季節はもう夏なのだねえ。

絵と文・ふじたのぶお
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# by foujitas | 2009-05-22 16:05 | 洒落日記  

ファーストファッション

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いまアパレル業界では、原宿に「フォーエバー・トエンティワン」が開店したことが話題に上っている。先に開業した「H&M」と同じく、ハイファッション、ロープライスを謳い文句に凄まじい勢いで成長している企業ブランドである。つまり高い流行感度と安い価格が売り物で、200ドルを持って行けば上下の衣服と靴や鞄、アクセサリーまで揃うというから恐ろしい。

その流行感度は高い上に早い。店頭の品物は二週間で入れ替えることを目指し、購入する消費者も「今シーズンだけ」と割り切っている。ステーキハウスの肉ほど美味しくないことは承知の上で、お手軽で時間がかからないハンバーガーのような洋服という比喩から、ファーストファッションと呼ぶジャンルが生まれた。めまぐるしく変化する流行を手軽に楽しめるのは、今の時代は利口な過ごし方かも知れない。

一方で時を同じくして、池袋の老舗百貨店が閉店という知らせが流通界を震撼させた。

人の暮らしの根幹である「衣食住」に関わる物品が全てファースト何某に偏ってしまったら、その先に何があるのだろうか。職人と呼ばれる人々が一見すると無駄と感じられる手間や時間をかけてこしらえた物は、もう探さなければ出合えない。物に対する愛着心や、せつないまでの願望を抱いて手に入れる課程にこそ、物を理解し、本当に自分の幸いとできる堅実な生き方ではないのかねえ。

絵と文・ふじたのぶお
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# by foujitas | 2009-05-15 16:05 | 洒落日記  

寡黙に上質を語れ

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ちょいワルおやじが流行して数年。お父さん世代の着こなしが脚光を浴びて、ファッション業界にも新たな風が舞い込んだ。それまでにも大人向けカジュアルは存在していたが、オヤジといえばスーツが主役。カジュアルな洋服は若者向けの分類がなされていた。デパートの紳士服売り場でも、お父さんの普段着といったら途端に野暮な色や柄が並べられ、思わず肩を落としてしまう眺めでしかなかった。

しかし団塊世代が定年を迎えた頃から、洋服屋の風景が変わった。若者向けの洋服が無分別な方向へ暴走を始めたことも引き金になり、どこか懐かしいアイビー風味のカジュアルウェアが少しずつ見直されたのである。しかもそれらは質の良い品物で、ときに楽しくなるような色合いでショーウィンドウを飾った。

ある洒落者がこう話した「オレらオヤジはええモノを着にゃあいけん。つまらんモノを着とったらガキより格好悪うなる」。なるほど、腹は出て、いささか頭に白い物も目立ってきたけれど、彼らには人生経験を積んだ意地と自負心がある。派手好みにせよ、地味好みにせよ、いぶし銀のような着こなしを実践する事ができるのは、まさしくオヤジ世代の特権なのだねえ。

なあに、子どものようにブランドへ依存する必要は無い。素朴な一枚のシャツであっても、にじみ出るキャリアが寡黙に上質であることを物語るのである。

絵と文・ふじたのぶお
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# by foujitas | 2009-05-08 16:04 | 洒落日記  

エコロジープリント

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トラッド系ファッションに好まれるシャツ柄は格子やストライプである場合が多い。糸の段階で様々な色に染め、美しく織り上げた生地は繊細な発色と風合いが得られ、洗濯による色落ちの危険が少ない。これを「先染め生地」という。単色格子のギンガムチェック、二色格子のタッターソルズなどは、カジュアルな着こなしを楽しませてくれる伝統的な柄である。

一方で服飾の歴史を遡ると、先染めよりも古い時代から染め付け柄が施されていた。絵付けや、版を用いたプリント柄のことで、その図柄や手法は世界各地で独自に考案され、現代へ引き継がれている。地球規模で普及したプリント柄だが、いわゆるアイビーファッションとして取り沙汰された柄は、意外に少ない。

たとえば、ろうけつ染めによるインドのジャワ更紗は「バティックプリント」と呼ばれ、七十年代に流行した程度。一部には通称アロハシャツと呼ばれるハワイアンシャツが話題になったが、街なかで着用するには派手に過ぎ、専らリゾート向けとされた。

かかるメンズファッション界に近年、英国の古参プリント柄のシャツが人気を博している。「リバティ」といえば歴とした企業名だが、リバティプリントはもはや自然の野山や動物をあしらうクラシカルな柄の代名詞。時代に呼応したようなエコロジーアートともいえるシャツで、今年の初夏を楽しんでみるとするかねえ。

絵・文 ふじたのぶお
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# by foujitas | 2009-05-01 16:03 | 洒落日記  

三ボタン段返り

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ここ数年、ベテラン世代のお客様からスーツやブレザーのご用命を頂く折り、三ボタン段返り型を所望されるケースが多い。背広の前立ては三ボタンで上二つ、あるいは二ボタンで上一つを留める形が一般的なのだけれども、アイビーブームが席巻した当時には、三ボタンの真ん中一つだけを留め、衿は第一ボタンと第二ボタンの間で返る形が特徴的に存在していた。これを「三ボタン段返り、中一つ掛け」と称した。

アメリカ東部のエリート大学から社会に出た人々は、かのブルックスブラザースの衣服を愛用していた。日本における段返り型は、彼らが提供した「ナンバーワン・サックスーツ」を手本にしたもので、それは胴を絞らない寸胴なシルエットと狭い肩幅、さらに袖ボタンは二個という独特でクラシカルな佇まいを持っていた。むろん現在でも営々と、それは受け継がれている。

ところが昨今のファッション界では、無意味にスーツ丈を短くした背広を流行らせるなど、もはや見るに耐えない洋服が大手を振って歩くようになった。あの無垢な若者たちが植え付けられた洋服観は将来の徳になる事がなく、不憫にさえ感じてしまうのだねえ。

思うに、団塊世代の人々が今や懐かしい「三ボタン段返り」に興味を持たれる背景には、単なるノスタルジーがあるだけではなく、逸脱してしまった若者のファッション感覚に対する一つの警鐘の念が込められているのではないだろうか。目覚めよ、若人。

絵・文 ふじたのぶお
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# by foujitas | 2009-04-24 16:32 | 洒落日記  

貝ボタンの粋

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乱獲が資源の枯渇を招いたか、取り扱いの手数が敬遠されたのか、このところ貝ボタンを見かけることが少なくなった。夏素材の背広に好まれた美しいボタンは、天然の貝を削って造られた貴重な代物。その独特の光沢は、プラスチックの加工技術が発達した現代でも一線を画す古来の素材だった。

ボタンに求められる性質は成形が容易で、かつ衝撃に対する強度が必要。むしろ合成樹脂がなかった時代に思いをはせると、けだし動物の骨や角が用いられたのは当然だったかも知れない。そんな当時から人々は、瑞々しい光沢を持つ貝ボタンを珍重していた。

貝殻と言ったってシジミやアサリではボタンにならぬ。ホログラムの如き艶を持つ「蝶貝」は、一方でパイ生地のような脆弱な組織を成していて、高温のスチームや激しい洗濯の衝突で呆気なく割れてしまう。また保管状態が悪いと変色するなど、扱いには気遣いが欠かせない。

それでも、いや、それなればこそ黒蝶貝や白蝶貝が似合う夏の洋服には、直感的に男の粋を感じるのであるねえ。コットンスーツやインディアマドラス、シアサッカー、あるいはリネン素材などのサマージャケットには、繊細な貝ボタンがおごられる。なるほど、逆から見るならジャケットに付けられた貝ボタンは、夏の洒落者が御用達の証しというワケである。春来たりなば、夏遠からじ。

絵・文 ふじたのぶお
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# by foujitas | 2009-04-17 16:31 | 洒落日記  

ラガーシャツ

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かつてのテレビドラマにラガー刑事と呼ばれた役者があった。それは入庁前の大学でラグビー選手だったことに由来する愛称と記憶している。大学においてラグビーは「早慶戦」などと言われるように、所属校の名誉と誇りを担っていたのである。

彼らがゲームのときに着用しているのが「ラガーシャツ」である。丈夫なコットンジャージは、広いグラウンドを縦横無尽に走って激しくぶつかり合うときでも、一目で敵と味方の識別ができるよう、派手な横縞柄に染め分けられている。容易にすり切れぬよう襟は布でこしらえてあり、怪我を防ぐための比翼前立てにはゴムのボタンが備わる。

運動選手が神聖なユニフォームをグラウンド以外で着る事は慎まねばならないが、OBたちは大学生活の全てを費やしたラグビーに熱い思いを馳せ、社会に出た後でも休日になると、あの派手な縞柄のラグビージャージを着て出かけた。汗を吸い取り、丈夫で動きやすいその性能は、躍動的な一日を過ごすために必要な条件を満たしていて、すこぶる調子が良いもの。

こうしてラガーシャツはタウンカジュアルにすっかり溶け込み、いまやポロシャツにとって代わる春先の代表的な衣服として多くの支持を得ているのだった。洋服屋でその色柄を見てみると、オジサマが着る衣服の中で、これほど派手な配色の物は他に無い。すなわち大手を振って着る事ができる、唯一無二の派手アイテムというワケだねえ。呵々。

絵・文 ふじたのぶお
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# by foujitas | 2009-04-10 16:30 | 洒落日記  

メタルボタン

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中年向けに出版された趣味の雑誌などを開くと、軽くファッションの話題に触れている特集がある。それは格好良いお父さんへネイビーブレザーを薦めるような内容で、いま密かなブームだ、と当たり障りなく書かれている。流行というより紺色のブレザーは、もはや誰もが愛用するチノパンやポロシャツのような代物。とりわけ多くはないが、すたることもなく、洋服屋にとっては、毎シーズン大差なく売れている当たり前の品物だ。

さて、定番化したブレザーは利便性から習慣的に着用する時期と、何となく金属のボタンが気恥ずかしくなって遠ざかる期間が、なぜか交互におとずれるもの。問題の「メタルボタン」はしかし、よく見るとていねいな細工が施してある、男の数少ない服飾品の一つだ。しばらく袖を通していなかったブレザーでも、ボタンだけ新調することで見違えるように生まれ変わるのだねえ。

そこで先頃、店にある品物を改めて広げてみた。実に多彩な色柄、材質でこしらえてあるが、いかんせん価格が高い。前立てに付ける四個のボタンと袖用の八個を合わせて、十二個のボタンが箱に入って六千円以上なんて我ながら合点がいかぬ事。

メイカーが言うままの売価だったが、ちょっとコイツを見直してみた。中にはヤケに仕入値が高い物もあったけれど、この際度外視。定額給付金制度が始まったら、タンスに吊したブレザーのボタンを付け替えてみるとするか。

絵・文 ふじたのぶお
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# by foujitas | 2009-04-03 16:28 | 洒落日記  

ブランド観

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洋服のブランドは雑誌などで価格帯とデザイン風味、また対象年齢によって分類されることが多いが、洋服屋が思うブランド観は少し異なる。それらの生い立ちや背景を知っているゆえに、現在にいわれる表面的な位置づけ以外の印象があるのだねえ。

ニューヨーカー。洋風の名前だけれども、元は大同毛織と名乗った機織屋が立ち上げたブランド。よってスーツなどの服地を知り尽くし、最善の縫製技術でモノ造りをしている。アイビーブームだった六〇年代に生まれた古参のブランドで、おそらく国産紳士服の中では一、二を争う上質な造作。

マクレガー。一九二一年にアメリカで産声をあげ、五〇年代にカジュアル衣料として世界各地で流行。映画「理由なき反抗」でジェームス・ディーンが着用した赤色のドリズラージャケットは、後に同ブランドの象徴的なデザインとして現在でも造り続けられているもの。日本では六〇年代に日綿実業がライセンスを取得して供給を始めた。

ケンコレクション。稀代の洒落者、石津謙介氏がVANを退いた後に立ち上げた国産ブランド。名称のケンは、謙介の一文字を犬に見立ててもじったものだ。大人の洒落心を具象化したカジュアル感覚は、江戸前の粋にも相通じる実に玄人好みな仕様で、見るほど着るほどに趣が深まる。ただし取り扱う店は少ない。

かくて小さな老舗洋服屋が思うブランド観の確度たるや如何ばかりか、さて。

絵・文 ふじたのぶお
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# by foujitas | 2009-03-27 18:38 | 洒落日記