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スプリットヨーク

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ドレスシャツの仕立てに関する事柄。いつも着ているシャツをハンガーへ掛けて後から見ると、背中の上部に横向きの生地が縫い合わせてある。縦縞柄のシャツなら一目瞭然。

日本では「肩はぎ」と呼ぶスプリットヨークは、人間の体の構造に合わせた合理的な仕立てだった。背骨の頂点から左右に伸びる人の肩線は水平ではなく、やや下がっているもの。ひとたび両腕を動かせば、背中の当てた「肩はぎ」は、やはり肩線に沿って引っ張られる。

一方で織られた布は、水平垂直方向の引っ張り強度は高いが、斜めに向かって引くと意外なほど脆い。織り目は菱形にねじれてしまい、形が崩れてしまうのである。ただし、それは織布の技術水準が低かった当時のことで、現代では、細い綿糸を緻密かつ均等に織ることができるので、斜め方向の脆弱性は大きな問題にならなくなった。

スプリットヨークは、そんな時代の智恵として考案されたクラシカルな仕立てである。ところが、実際に縫製の工程を考えると大きな手間がかかり、製造する側に立てば省略したくなるもの。いつの間には忘れ去られた仕立てとなった。

来シーズンの展示会へ赴いたおり、スプリットヨークのシャツを見つけたので、嬉々として営業担当の若い兄さんに尋ねた。すると「ああ、本当だ。そうなんですか」と、まあ、時代は変わっていくのだねえ。南無三。

絵と文・ふじたのぶお

# by foujitas | 2009-09-18 18:38 | 洒落日記  

パンツの合わせ方

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男子がパンツ型の衣服を着るようになって久しい。しかし元は着物を身につけていた過去があるせいか、そのパンツを充分に着こなしている御仁は意外に少ない。これは洋服店の売り方にも一因があるのではないか。

多くの男はパンツを選ぶとき、まず着丈を気遣う。つまり裾上げをした後、足の甲へ被さる裾の長さだ。特殊な流行は別にして、甲には「ワンブレイク」と呼ばれる僅かなたるみが佇まいを優雅に見せるもの。そして次に裾や腿の幅。太すぎず、細すぎず、適度な寸法を良しとするならば、今時なら裾幅二十二、三センチ、膝幅二十六センチ前後が妥当だろう。

そしてデザイン。腰のタックや裾の折り返しの有無。果てはベルトやポケットの形など、パンツにはいくつかの代表的な意匠がある。ここまでは、ちょっと詳しい販売員に尋ねると応えてくれよう。

問題は股上。既製服の場合は修正が困難だから話題にしないのか、誤って着用すると、やけに貧しい見え方になってしまうもの。股上が深いパンツはクラシカルに見えるので、近年では好まれている。ところがジーンズのような安易な着方で腰骨へベルト位置を合わせると、股下に余分な空間が生じる。残念なことに、これでは短足な体型に見えてしまうのだねえ。既製品パンツは股上に気遣って着るが良し。

絵と文・ふじたのぶお

# by foujitas | 2009-09-11 18:35 | 洒落日記  

シャツの合わせ方

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足早に夏が行き、秋がやってきている。そろそろクールビズには見切りを付けねばならない時節であり、解き放った首元にも豊かな表情をもつネクタイが戻ってくる。やはり、きちんと着こなしたスーツ姿にこそ、男を物語る色香は醸し出されるものだねえ。

さて、一旦緩めてしまった首に再びタイを結び下げるのは苦痛のようだけれど、ここで油断をしてはならない。それでなくても昨今のドレスシャツは、少しルーズなサイズ合わせが常態化していて、こんな姿を世紀の伊達男ウィンザー公に見られたら、さぞ嘆げかれるに違いないのである。

それはネックサイズの合わせ方。シャツの採寸には首周りとユキ丈、肩幅、上中下の胴寸、それに総丈がある。既製品のシャツを選ぶ場合は、主にネックとユキ丈を見て合わす。なかんずく首周りは本来、裸体にメジャーを当てて測ったヌード寸法に対して、約十五ミリを加算した表示サイズが丁度良いとされる。実際に着用すると、第一ボタンを留めて指一本の余裕が生じる程度だ。

ところが窮屈感を嫌うゆえに、少し大きな首サイズを着用する向きが増えた。シャツの首に余分な隙間があると、レギュラーカラーなら襟は浮き上がり、ボタンダウンカラーならロールが潰れてしまうなど、実にだらしない佇まいになってしまうもの。新政権と共に始まる秋のスタートダッシュは、正しいサイズでキリッと着こなすべし。

絵と文・ふじたのぶお

# by foujitas | 2009-09-04 12:45 | 洒落日記  

晩夏の半パンツ

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さきごろ催した中通り商店街の土曜夜市は「駅前でう飼!」とテーマを掲げ、予想以上の賑わいに沸いた。それから数週間が経ち、一連のイベントを締めくくる招待船「中通り子ども鵜飼船」が就航。商店街から世話係りの一員として、初めて昼鵜飼いを楽しむ機会を得たのである。夏も終わりに近づき、日射しは強くても川風は秋の気配。洋服屋であるがゆえに、さて何を着て行ったものか。

悩んだ挙げ句の果て、足を入れたのはインディアマドラスの半パンツだった。なんというか良い年をしたオヤジが半パンツで歩くのも気が引けるが、和風の淡水リゾートのような昼鵜飼いには、実のところピタリとマッチしたのだった。なにしろ涼しい。しかし身嗜みは大切。アンクルソックスを履きせしめ、同乗した小学生とは一線を画しておかねばならない。

そうして店へ帰ってみたなら、さっそく秋物の品物が到着していた。こうなると晩夏の半パンツでは立場がない。秋色に染められたシャツなど見ていたら、そろそろ真夏の着こなしは納め時と思えてくる昼下がりだった。

さて、八月いっぱいで鮎の禁漁となるので、鵜飼いもお終い。晦日には「鵜飼い感謝デー」と称した謝恩価格で遊覧を楽しめるイベントがあるという。暮れゆく夏を惜しみつつ、川面に浮かんで杯を傾ける夕べも一興。秋一番の服でも新調して乗ってみるかねえ。

絵と文・ふじたのぶお

# by foujitas | 2009-08-28 12:44 | 洒落日記  

シャツイン

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「おとうさん、今はシャツインよ」近所へ買い物に出かけようとした父を、年頃の次女が咎めたそうだ。いつの時代も父親と娘の役どころは変わらぬもので、目まぐるしい流行を敏感に追いかける女子と、自分なりに流行を意識しているつもりの親父には、どうやら言い知れぬギャップがあるらしい。

シャツの裾をパンツの外へ出すか入れるかの論争は、いまもって決着をみていない。シャツの裾はパンツから出ないようにするため、前身と後身が長く仕立ててあるもの。よって本来は中へ入れて着用することが正しい。が、ラフな着こなしで過ごすリゾートでは、むしろ裾を出して開放的に着ることが格好良いとされ、やがてタウンカジュアルとして認められたのである。

混乱を引き起こしているのは、メイカーにも責任の一端がある。シャツジャケットと称する、形はシャツだが用途は外套。つまり一番上に羽織るための衣服として作っているにもかかわらず、その形状はシャツのままというアイテム。当然、洋服屋は「裾は出して着てください」と話すから、専門家でもないお父さんは、もう何が正しいのかより所を失うのであるねえ。

娘のいうシャツインには一理ある。しかしながら「今は」と限るのは残念ながら浅はか。着るべくして着れば、なあに小娘ごときに指図される懸念はありませぬぞ、お父さん。

絵と文・ふじたのぶお

# by foujitas | 2009-08-14 12:43 | 洒落日記