ボタンが語る大人のスーツ(後編)

ジャケットのボタンに一喜一憂する男たちがいる。
メンズファッションの流行は女性にくらべると変化が少なく、衿幅やボタンが少し変わる程度でしかない。お洒落に敏感な女性から見れば面容なこだわりかも知れないが、ボタンは限られたルールの中で自己主張ができる、背広のデザイン要素のひとつなのだ。
近年、ちょっとした回帰ブームが見られる。かつては信念をもってアイビーファッションに身を包み、真夜中の国道をクーペで駆っていた洒落者たちが、やがて良き家庭人として過ごし、気に留めなくなっていた自分の洋服に、またこだわりを持ち始めた。それは子育てを終えた女性が、淑女として再び輝きを取り戻すと同じ心境にちがいない。
男たちは「3ボタン段返り」と呼ぶスタイルをこよなく愛していた。トップボタンは衿の返りの裏へ隠れて見えないが、対するボタンホールは存在する。こんな小さな仕様が男の美学なのである。
せっかく仕立てるなら、もう一度あのジャケットを着てみよう。そう考えるオヤジ世代の粋が、今またメンズファッションを面白くしている。
絵と分・ふじたのぶお
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by foujitas | 2006-09-02 18:01 | 洒落日記