釣り道楽のエスパドリーユ

実をいえば、古い自動車と魚釣りはずいぶんと長い道楽。なかんずく磯にあって夢見る釣りは、高島という離島で鯛やヒラマサと格闘することに深いロマンを思うのである。
梅雨が明け夏ともなれば猛烈に暑い。磯際に立つときは物々しいスタイルで過ごすけれども、港に戻り、緊張をほどいて専用のスパイク靴から裸足になったときの開放感は、大変に心地良いものだ。しかしそこで、はたと履き物に困る。素足のまま歩く事もならず、サンダルらしい物を持参するのだが、なかなか理想的なものに巡りあえない。
マリンシューズ風の安価な靴を買ってみたなら、これがすこぶる暑く足が蒸れる。次には面妖な形の健康サンダルを履いてみると、こんどは何とも格好が貧しく、道中で立ち寄る店先でも気が引けるのだよ。
フランスの南西。スペインにまたがるバスク地方に伝統的な麻のサンダルがある。「エスパドリーユ」と名付けられたそれは、麻縄を巻いたソールと麻布のアッパーを麻糸で縫い合わせた、天然素材の単純な履き物。しかし色はアトランティック風で底抜けに明るく、まったく楽しい。かつて80年代に日本でも流行したエスパドリーユが、昨今のロハスブームの中で再び脚光を浴びるかも知れない。
なにより絶海の孤島で過ごす釣りの一日は、やはり自然志向のサンダルがよく似合う。なに「それで獲物はいかに」ふむ、それは聞かぬが華というもの。
絵と文・ふじたのぶお
by foujitas | 2007-07-27 14:36 | 洒落日記