ネクタイの季節

テレビを見ても街を歩いても、スーツ姿の男性はシャツの襟を軽快に開け放った姿ばかりが目に付いた夏。省エネ対策に最適とばかり、政策に則る形で普及したクールビズスタイルは、しかし一方で収まらぬ物議を醸していた。
世界的なエネルギー危機だとか、これこそ時代のルールだなどと肯定したけれど、本来、男の服装においてタイを着用しないスーツ姿は、画竜点睛を欠く着こなしに他ならない。わかっていながら「まあ、ええ言う事にしよう」と、互いが認めているからこそ成り立った特別な服装術であることを忘れてはならない。
ネクタイの意味合いをして無用とする向きもある。しかし身だしなみを考える上で重要な役割を果たすもので、世の男女がみな野生に任せてズボラな不精を決め込んだら、民主主義社会は、まるで成り立たない。
時にネクタイは立場を表し、性格を語り、相手を気遣う大事な布。果ては季節感を楽しみ、満足を得るための愉快なアイテムである。急ぎ足でやってくる秋に、また男たちの胸元が華やぐのだねえ。
国を治める内閣は突然の騒動。日々を懸命に暮らす国民にとっては、寝耳に水の仰天劇である。何でも省くクールビズ思想も良いが、今一度襟元を正し、面倒でもネクタイの一本を結んで、しっかり仕事をしてくれぬものか。
絵と文・ふじたのぶお
by foujitas | 2008-09-05 16:22 | 洒落日記