コールテン

文明開化。日本には急速に西洋の物事が流入し、各地で独自の繁栄をみた。とりわけ衣食住にかかわる物は優先的に受け容れられた背景があって、当座の呼び名を付けて国内へ流通させたにちがいない。ポルトガル語やフランス語、英語が入り交じる貿易港にあって、難解な発音や長い名称を巧みに簡略化し、それは短期間で市民権を得たのだろう。
「別珍」といえばベルベット。畝(うね)のあるベルベット生地は「コールテン」。英名「コーデッド・ベルベッティン」を甚だしく簡素にした名前である。いつしかコール天と書くようになったのは、まったくの当て字というわけで、現代のアパレル業界ではコーデュロイと呼ばれる場合が多い。
さて別珍に比べると、表面に凹凸を持つコールテンはスポーティな印象が強い。いまでは綿素材が主に用いられ、軟らかく丈夫で、ベルベット特有の光沢と深い色合いが特徴。多くはパンツやスカートなどのボトムスに用いられる、秋冬ファッションの代表選手だ。
そして毎年、メンズショップの窓を飾るのが同素材で仕立てたスーツ。季節柄ウール素材が多い中にあって、コットンの優しい肌触りと風合いを楽しむには最適のカントリー調ファッションだねえ。
メンズファッションの三十年を振り返ってみれば、素材や色、形を変えずに受け継がれている洋服は実のところ多くない。今年はコールテンのスーツを味わってみるか。
絵と文・ふじたのぶお
by foujitas | 2008-10-10 16:18 | 洒落日記