ジャカード
「ほう、ケータイはジャガードか」思わず口を衝いて出た。フランスのジャカール氏によって考案された多重織機は、豊かなデザインをパンチカードに変換することで多色の糸を複雑に交差させ、自動的に柄を織り上げる優秀な機械である。正しくは「ジャカード」。 連続するレリーフ状の模様を創造するジャカード織りは、無地ネクタイの織り柄やスーツの服地などにも広く活用されている。繊細な柄が容易に量産できることから、十九世紀になって世界中に普及したという。
同じ原理でニット糸を用いてものをジャカード編みと呼ぶ。代表的なニット製品は、多色の糸を巧みに編んだ美しい幾何学模様が魅力的なフェアアイル柄である。伝統的な柄は、昨今のアイビー回帰をテーマにしたメンズファッションにもしばしば見られる。
ところでフェアアイル柄が生まれたのは、スコットランドのシェトランド諸島にあるフェア島。やはり名前がモチーフとなった。独特な風合いを持つ暖かいシェトランドシープの毛を紡ぎ、豊かな色に染め分け、複雑極まる多重編みを手で施すのだから驚くばかり。道理で高価なはずだねえ。
舶来語の誤用は少なくないけれども、携帯電話の予測変換に現れたジャカードの「カ」は、なぜか濁って「ガ」と表示されていた。高嶺の花を身近にしてくれたジャカール氏に敬意を表して、正しくジャカードと呼んで差し上げたい。
絵と文・ふじたのぶお
by foujitas | 2008-10-31 16:20 | 洒落日記