ヴァンプ靴
英語でつづる「VAMP」は日本語で記すと母音に濁点を付けた奇妙な言葉になり、「バ」でなく「ヴァ」と発音するらしい。そのヴァンプとは本来、靴の爪先革を構成する部品の呼び名であり、甲に飾りをもたないシンプルな短靴を呼ぶ総称。誕生時期は定かではないが、そのシンプルな構造をみる限り、ドイツで革靴屋が生まれた十六世紀の終わり頃から存在しているのではないだろうか。
歴史はさておき、何よりも簡素なデザインが支持されたからこそ、世界中で何百年も愛用されているに違いない。先日「なんでも合わせられる靴を見せてください」とお客様がみえた。そこでコインローファーという甲にベルトを縫いつけた伝統的なデザインの靴を手に取りかけて、ふと迷いが生じたのだねえ。
六〇年代にアイビーファッションとして日本へ紹介されたバンプ靴は、やはりアメリカのロカビリーブームを色濃くもつ異端児的な扱いだった。しかし歴史をひもといてみると、この形こそ靴における一つのユニバーサルデザインと言えるではないか。そんな長い説明を聞いていただき靴を選んでくださる一幕があった。
そしてお客様はこう続けた。「そういえばアメリカ人がよく履いてますよね」なるほど岩国には米軍基地がある。日本ではまだ五〇年の歴史しか無いけれども、すぐ近くのアメリカ社会では普通の革靴として古くから親しまれていた訳か。灯台下暗し。
絵と文・ふじたのぶお
by foujitas | 2008-11-07 16:21 | 洒落日記