ポケットチーフ
我ら商人が店を開けてこそ、街の賑わいは創り出せるはず。長い正月休みが続く商店街にあって「三日より初売り」と看板を掲げた。不況が叫ばれる昨今だが、それでも大勢の家族連れや友だちが駅前に繰り出し、洋服屋は久しぶりに活気を帯びた。はやり街は、愚痴をこぼすだけでは元気にならぬものである。
閑話休題。年の初めの商いは礼を尽くしてお客様を迎えたいと考え、当日はいつものアスコットスカーフを外してタイを結んだ。鏡に映った己の姿に何か物足りなさを感じ、ポケットチーフを挿してみると、これがなかなか華やかで良い。正月早々にめでたい自画自賛である。
本来ポケットに挿すチーフは、リネン(亜麻)の繊細な布にプレスを効かせて使うべきものだが、なぜか洒落者が好むのはシルクの軟らかい布が多い。折りたたもうにも絹はクニャリとしていて侭ならぬ代物だ。そこでチーフの中央を指で摘み上げ、片方の手でしごくように窄め、二つに折り曲げて無造作に挿す。角を覗かせれば「クラッシュホールド」と呼び、曲げた山を出せば「アイビーホールド」という。
元は折りたたんで挿していたチーフを隣の淑女のために抜き出し、そっと使ってもらった後、無造作に胸ポケットへ挿したのが事始め。洒落者の些細な着こなしには、いつの時代も素敵な物語が背景にあるものだねえ。本年もよろしくお願いします。
絵・文 ふじたのぶお
by foujitas | 2009-01-09 17:42 | 洒落日記