シャツイン
「おとうさん、今はシャツインよ」近所へ買い物に出かけようとした父を、年頃の次女が咎めたそうだ。いつの時代も父親と娘の役どころは変わらぬもので、目まぐるしい流行を敏感に追いかける女子と、自分なりに流行を意識しているつもりの親父には、どうやら言い知れぬギャップがあるらしい。
シャツの裾をパンツの外へ出すか入れるかの論争は、いまもって決着をみていない。シャツの裾はパンツから出ないようにするため、前身と後身が長く仕立ててあるもの。よって本来は中へ入れて着用することが正しい。が、ラフな着こなしで過ごすリゾートでは、むしろ裾を出して開放的に着ることが格好良いとされ、やがてタウンカジュアルとして認められたのである。
混乱を引き起こしているのは、メイカーにも責任の一端がある。シャツジャケットと称する、形はシャツだが用途は外套。つまり一番上に羽織るための衣服として作っているにもかかわらず、その形状はシャツのままというアイテム。当然、洋服屋は「裾は出して着てください」と話すから、専門家でもないお父さんは、もう何が正しいのかより所を失うのであるねえ。
娘のいうシャツインには一理ある。しかしながら「今は」と限るのは残念ながら浅はか。着るべくして着れば、なあに小娘ごときに指図される懸念はありませぬぞ、お父さん。
絵と文・ふじたのぶお
by foujitas | 2009-08-14 12:43 | 洒落日記