ピュアカシミア再考
羊毛製品の最高峰といえばカシミアをおいて他に無い。一頭の羊から二百グラム前後しかとることができず、セーター一枚には四頭の羊の毛が必要と言われる繊維である。カシミアとは、何故かくも珍重されるのだろうか。
温暖な気候で育てられる一般的なメリノ種の羊とは異なり、カシミアはインド北部の高山地帯に位置するカシミール地方に語源をもつカシミア山羊の毛を指す。中国の北西部やネパールのヒマラヤなど、とても寒い地域に生息している羊だ。その羊毛は二つの層に別れていて、外気に触れる外側には太く硬い剛毛が、肌に近い内側には油脂分を含んだ繊細な柔毛が密生しているという。カシミア製品は、この柔毛のみを櫛で梳いて取りだし、手作業によって集められる。それは美しい長繊維で、糸に紡ぐときにも切れる事のない丈夫さを持ち、きれいに染められる。織り上がった布は深い光沢があり、極めて柔らかく、非常に温かい。
しかし余りにも希少性が高いため、採集や紡績のときに出た屑繊維を再びかき集め、これも利用する。カシミア製品の価格に大きな差が生じるのは、単なる中間コストだけの問題ではなく、その素性や使用量も量りにかけられているのであるねえ。
それゆえに一流のカシミアを身につけるのは、温かさや軽さの恩恵を受けるにとどまらず、得も言えぬスノビズムが漂うのである。
絵と文・ふじたのぶお
by foujitas | 2009-12-11 17:14 | 洒落日記