チェスターフィールド
店に今、あまり見慣れない品物が吊ってある。カシミアコートのオーダーセールを開催している最中、その仕立て見本となるチェスターフィールドコートだ。ラペルと胸ポケットを備えたウールのロングコートは、すなわち背広の裾を長くしたようなデザイン。数多あるコートの中でも、最も格式の高い物として知られている。
英国の洒落者で知られた六代チェスターフィールド伯爵が、十九世紀の当時考案したとされるコートは本来、上衿にベルベットをあてがった極めてドレッシーなデザインだった。後に一般的なドレスコートとして広まっていく中で、上衿は共布となり、前立てのい打ち合いは比翼仕立てに変化した。これを区別するために発展型をセミ・チェスターフィールド・コートと呼ぶようになった。
昨今ご注文をいただく大半は、やはり実用を考慮したハーフ丈のコートだけれども、デザインの選定段階で一度は考えてみるのがロングコート。膝下まで達する長い着丈のコートは、たしかに自転車に跨るにはほとんど煩わしいが、その佇まいは想像以上に美しい。また、屋内で手に提げる姿も優雅で、男の着こなしを全身で物語る。
こういう着こなしがキラリと光るシーンは、たしかに岩国において多くない。しかれども二百年前、伯爵が仕立て屋に造らせた思いつきに因んで、こんどはチェスターフィールドコートが似合うライフスタイルを自ら創造するのも一考なのであるねえ。
絵と文・ふじたのぶお
by foujitas | 2009-12-18 17:15 | 洒落日記