手縄始め
「たなわはじめ」と読む。岩国の夏の風物である錦帯橋の鵜飼いは、一年を通して鵜匠と鵜はトレーニングに励み、来るシーズンに備えているもの。年を新たにし、最初の稽古を行っていたのが従来の「初トレーニング」だったが、今年からは鵜匠が初めて鵜に手縄を括ることを機に、岩国の鵜飼いを愛する大勢の人々と一緒になって神事を行い、皆の健勝を祈念しよう、と「手縄始め」に改称された。
故あって末席をいただく事になった当日、錦帯橋のたもとにはたくさんの人が集っていた。出席された大半の方は年配者であり、金髪の無分別な若者の姿は皆無。実に清々しい気分で執りおこなわれた大人の集会であるねえ。
思うに、日々の暮らしの中において、屋内で催される様々なセレモニーは多いけれど、当日のような寒い日の屋外で行われる式典は少ない。つまり「何を着て行くべきか」と、はたと戸惑うことになる。左様、ドレスコートが活躍する数少ない場面だ。
さても如何なものかと思いつつ河原に立ち、三三五五に集う人々の姿を眺めてみると、流石はみな著名な御仁。紳士と淑女はおしなべて確かなコート姿で着席される。一方で報道カメラを持つ方々は、荷物を背負い、活動的なアウターウェアで防寒に余念が無く、その有様は非常に対照的で趣に富んでいた。チェスターフィールドコートの黒が、まったく絵になる錦川の一幕。
絵と文・ふじたのぶお
by foujitas | 2010-01-15 17:18 | 洒落日記