ニール・ヤング

彼は使い込んだマーチンのアコースティックギターを肩に掛け、ハーモニカをくわえて、一際まぶしい照明が向けられた雪のステージへ一人で登場した。燃えさかる聖火の下、静かに熱唱が始まると、たちまち数万人の観客は彼の歌声に魅了された。彼は、バンクーバー五輪の閉会式で威風堂々と歌ったカナダのシンガー、ニール・ヤングである。
スノーボード選手の若者が強烈な批判を浴びて幕を開けた冬季オリンピックでは、各国のアスリートが世界最高レベルで競い合い、感動と興奮を生み出した。ニール・ヤングが歌い手として世に出たのは一九六九年の事だったという。七〇年代のフォークロックに名を馳せ、日本でも数多くのファンが知るシンガーだが、競技に参加した若い選手たちが彼を知っていたかどうかは少し興味深い。
ニール・ヤングは黒いチェスターフィールドコートを身につけて銀色のステージへ立った。ロック歌手がフォーマルコートを着用するとは恐れ入ったが、これも彼なりの五輪に対する畏敬の顕れだったのかもしれないねえ。
黒いコートに合わせて彼は、興味深い帽子を被って歌っていた。同じく黒色のハット型。広いツバとフラットで浅いトップが特徴的なそれは、おそらくスペインの伝統的な「コルドベスハット」ではなかっただろうか。今年で六十五歳という、それはニール・ヤングのおおいなる伊達であったか。オジサン万歳。
絵と文・ふじたのぶお
by foujitas | 2010-03-05 17:23 | 洒落日記