天然素材
フリースと呼ばれる素材が普及して十年が過ぎただろうか。それ以前は防寒着といえば分厚い羊毛セーターを思い浮かべたが、合成繊維の研究が進み、いまでは冬のアウターの代表格となった。
本来フリースとは、羊から刈ったままの一枚の羊毛を指していた。後に両面を起毛させた素材の全般を呼ぶようになったという。今ではペットボトルの再生素材とされるポリエステル繊維を加工した布として、固有名詞のように周知されている。
十数年前、アメリカのラルフローレンの製品として入荷したフリースは、その価格が五万円ほど。見たことも無かった新素材は驚くほど暖かかったが、合成繊維でこれほど高価なことにも仰天した記憶が残っている。しかし価格は年々下落。いまでは安くて暖かい服として誰もが愛用するアイテムになっている。
思えば洋服業界において、これは一つの大きな波だった。各社がこぞってフリース製品を拵え店頭を賑わせたが、一方で総量バランスを図るため従来の羊毛製品がたちまち姿を消してしまったのだねえ。
かかる時代の反動か、近年の冬は天然の羊毛セーターが洋服屋に帰ってきた。柔らかくて、ほのかに香る毛糸のにおい。深い色合いと編み柄による豊かな模様。北欧を中心に世界各地で何百年、何千年
たった十年の生い立ちでしかないフリースとは歴史の重さがちがう。
絵と文・ふじたのぶお
# by foujitas | 2008-11-28 16:23 | 洒落日記